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彼女の第一印象は、”高嶺の花”だった。
仕事をするのに通っているコワーキングスペースによく現れる女性だった。
一人でパソコンに向き合っている俺とは違い、彼女が使うのは談話スペース。
そこで毎回誰かと商談をしているようだった。
綺麗な人だった。
人の外見にはあまり興味がない俺でさえそう思うんだから、相当な美人だと思う。
彼女が現れると、つい目で追ってしまう。
だから、割と早い段階で気がついた。「やはり高嶺の花だった」と。
彼女の左手薬指には、結婚指輪が光っていた。
コワーキングスペースはフリードリンク制になっており、コーヒーなどは飲みたいときにマシンから勝手に注いで持っていくスタイルだった。
ある日、俺はいつものようにコーヒーを飲むために、マシンの横にあるカップを取ろうとした。
すると、丁度同じタイミングでカップに手を伸ばした人がいた。
「あ、スミマセン」
慌てて避け、相手の顔をちらりと見ると、高嶺の花である彼女だった。
「こちらこそ、すみません」
「あ…」
「…?」
思わず一瞬固まる俺を彼女は不思議そうに見た後、それから「ああ」と何かをひらめいたように言った。
「いつも近くの席でお仕事されている方ですよね。
すみません、うるさくて」
「あ、いえ…! それは、全然大丈夫ですけど」
前々から一度話してみたいとは思っていたが、いざ目の前にすると、何を話していいか思いつかない。
とりあえず「お先にどうぞ」とコーヒーを譲り、何か話題はないかと視線を巡らせる。
「…あれ」
すると、彼女の指に目が止まった。
「? どうかしました?」
「……指輪、今日はつけてないんだな、と思って」
言おうかどうか少し迷ったけれど、結局そのまま口にした。
どこかでなくしたんだったら大変だろうし…。
「あ、本当だ。すごい、よく見てますね」
「…大丈夫ですか? どこかでなくしたとか…」
「いえ、多分忘れてきたんだと思うので、大丈夫です」
「え」
あまりにも軽くそう返されたので、少し面食らった。
結婚指輪って、そんな簡単にどこかに忘れてきたりするものだろうか。
…と、思っていたのが表情に出ていたらしい。
彼女はふっと笑って「心配しなくていいですよ」と言った。
「あれ、本物の結婚指輪じゃないので」
「え?」
「お客さんに言い寄られると面倒なので、着けてるんです」
「ああ…なるほど」
確かに、彼女ほどの美人が営業をしていたら、そういうこともあり得るだろう。
…ということは、結婚もしていないのか。
何か理由でもあるんだろうか。
「では、私はこれで」
「あ、はい」
しかし、それを初対面で聞くのはあまりに失礼だ。
気になったものの聞くわけにはいかず、俺は彼女を見送った。
だが、それからわずか一週間後に、突然理由を聞く機会がやってきた。
「こんにちは」
「あ…こんにちは」
コーヒーをおかわりしに行くと、彼女が何を飲むでもなく、ドリンクコーナーに立っていた。
「お仕事は順調ですか?」
「まあ、一応…そちらは?」
「それが、約束してたお客さんが来ないんですよね…連絡なしで一時間過ぎたので、多分、すっぽかされたんだと思いますけど」
「え…」
「まあ、こういうこともよくあるので」
「はぁ…」
素直に大変だな、と思う。
営業なんて人と向き合う仕事は俺には絶対にできないので、尊敬する。
「…あ、指輪見つかったんですね」
何となく空気が重かったので、俺は話題を変える。
「ああ、あれ、本当になくしてたみたいで。今着けてるのはまた別の偽物です」
「そうなんですね」
「…本物は、もう捨てちゃったので」
「え?」
「昔、本物も着けていたことがあるんです。何年かだけですけど」
「…ご結婚、されてたんですね」
「…着けてみると、意外と重くて、外しちゃったんです。
永遠の愛なんて、なかなか見つからないものですね」
「……」
重いというのは、勿論比喩だろう。
陰る彼女の表情から、それが客にすっぽかされるのとは比べものにならないくらい大変だったんだろうと容易に想像できる。
「だから、しばらく一人でいいかな、と。そういうわけで偽物を着けてるんです」
彼女はそう平然と言うけれど、平然と言えるようになるまで、一体どれほどの月日が必要だったのだろう。
語らせてしまったことを、申し訳なく思った。そして、俺に何かできることがあれば、すぐに力になるのに、と思った。
それから、仕事の合間に、彼女とよく会話をするようになった。
最初は「仕事はどうですか」から始まり、やがて雑談になる。
2回目の会話で、玲奈という名前を知った。名前で呼んでいいと言われたので、玲奈さん、と呼ぶことにした。
何度目かの会話の中で、長い休みが取れたらどこに行くかという話題になった。玲奈さんは「景勝地巡り」と答えた。
カメラを携えて、自然を撮影するのが好きらしい。
「長期休みじゃなくても、一日だけでも行きたいなぁ」と彼女が言うので、ダメ元でついていってみたいと言うと、「じゃあ、一緒に行きますか?」と返事が返ってきた。
次の休日、玲奈さんと待ち合わせをして有名な滝を見に行った。
彼女が本格的な撮影をするというので、対抗してドローンでの撮影を試みると「こっちは限られたアングルで工夫してるのにズルい」と怒られた。
「カメラマンの立場がなくなっちゃうじゃないですか」
「なくならないですよ。腕がなければ良い写真が撮れないのはドローンだって一緒だし、カメラマンがドローンを使えるようになれば、もっと良い写真が撮れる。
常に技術をアップデートしていけば、淘汰されることはありません」
「…! アップデート、か」
「…?」
「そうすれば、重くならずに済んだのかもしれませんね」
彼女はそう言って大きく息をつき、すぐにまた、大きく息を吸った。
滝の周囲にはマイナスイオンが満ちていて、ため息を深呼吸に変えるには最適な場所だな、と俺は思った。
それから、玲奈さんとよく出かけるようになった。
毎日のようにコワーキングスペースで会い、休日も一緒にどこかに出かけていた。
それでも、交際を申し込むことはなかった。
恋人という言葉は重いから、彼女の負担になってしまう気がして言い出せなかった。
そうしているうちに、ある事件が起きた。
玲奈さんが突然、他の男にプロポーズされたのだ。
「ごめんなさい、あなたと結婚はできません」
「じゃあ、ゆっくり交際していくっていうのは? 交際している人はいないんでしょう?」
偶然耳にしたその会話を、壁に隠れながら聞いた。
「交際している人は、いませんが…」
「…」
「結婚したい人はいます。毎日一緒にいたいと思える人は」
「…そんな…」
諦めてその男が帰った後、俺は玲奈さんに「そんな逆プロポーズの仕方はズルい」と抗議した。
「…そんなつもりじゃ」
「じゃあ、今のはノーカウントだから。
明日俺に、チャンスを下さい」
「…え」
玲奈さんにそう告げ、その日、俺は早めに家に帰った。
机の引き出しの中から、小さな箱を取り出す。
時が来たらいつでも言えるようにと、密かに準備していたものを。
翌日、俺は玲奈さんにプロポーズをした。
”永遠の愛”という石言葉のある、希少なピンクダイヤモンドを3石使った婚約指輪…『Tsubomi』を差し出しながら、俺は彼女に、自分なりの想いを告げる。
「永遠に同じ愛は、ないかもしれない。
…でも、アップデートしていくことで、愛し続けることはできる。だから」
「…」
「常に想い合って、愛を更新し続けていきませんか。
俺はあなたと、そうやって未来を創っていけたらいいと思っています」
差し出された本物の指輪に、玲奈さんは少し迷い…それから、おそるおそる手を伸ばした。
「…素敵なプロポーズ、ありがとう。
今日まで待って良かった」
偽物の指輪を外して、本物の指輪を玲奈さんの指に着ける。
そうすると、彼女は少し驚いた表情をした後、ふっと笑ってこう言った。
「私がずっと、思い込んでいただけだったのかも。
本物の指輪って、こんなに軽かったのね」
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