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Ring Story

TSUGUMI ゆびわ言葉®:幸せを君に

2017.10.08

いつかは幸せな家庭が欲しい。
それは、女性なら誰もが一度は願うことだと思う。
結婚して、出産して、苦労しながらも大きくなるまで子供を育て、愛する人と素敵な家庭を築いていく…私も小さい頃から、そんな人生を夢見ていた。

パートナーとなる男性は、早いうちに現れた。
私が営業事務をしていた会社の営業マンである浩司は、営業マンなのに無口で不愛想。でも温かくて誠実で、社内で資料作りのサポートをするだけの私にも、いつも優しく「資料ありがとう」と声をかけてくれる人だった。
23歳のときに私と彼は付き合い始め、3年後には同棲をはじめた。全てが順調だったはずなのに、それから2年…付き合ってから5年が経っても、彼は一向に結婚の話を切り出してくれなかった。

愛されているはずなのに、先が見えない不安。
周りはどんどん結婚して仕事を辞めていき、年齢はいつの間にかアラサー。
それでも最初は彼のことを考え、「彼は仕事が忙しいから」、「昇進して海外出張にも行くようになって、将来のことを考える時間がないから」、そう言い聞かせていたけど…。
その我慢も限界を迎え、ある日些細なことでケンカして別れてしまった。

その後、私は転職し、心機一転、今度こそ結婚を考えてくれる彼を探した。
でも、婚活パーティーのプロフィールカードで他の人の字を読むたびに、浩司が仕事中にこっそり渡してくれたメモの文字が頭をよぎった。
デートで食事に連れて行ってもらうたびに、付き合っていた頃には毎月一度、彼がお洒落なレストランのディナーを予約してくれていたことを思い出した。
忙しい中でも、彼はちゃんと私のことを思ってくれていた…幸せが身近にあったことに気付いたのは、別れてから5年も経ってからのことだった。

彼にあの時のことを謝りたい。でも、今更謝れない。
そんな思いを抱えたまま10年が経ったある日、浩司から一通のエアメールが届いた。
『お元気ですか。
突然の手紙、すみません。でもどうしても昔のことを謝りたかったので手紙を書きます。』
そんな書き出しで始まっていた、彼らしい固い文章の手紙。
『もし会えるなら、もう一度会いたいです。』

謝りたいのは、私の方だーーそう思った私は、彼と10年ぶりに連絡を取り、再会し、あの時のことを謝った。
謝った瞬間、10年の空白の時間は、あっという間に溶けた。
私達は再び付き合うようになり、彼はこれまで以上にこまめに電話やメールをくれるようになった。
「海外で、友達に教えてもらったんだ。日本の相手を察し思いやる文化は素晴らしいけど、本当に伝えたい気持ちは、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないんだ、って」
彼はそう言って、私にたくさんの優しい言葉をくれるようになった。


そして、半年後の今日。
目の前に、ずっと欲しかった婚約指輪と、大好きな彼がいる。

「今度こそ僕と、結婚してくれないか。
もう絶対に、今目の前にある幸せを離さないから」

今更取り戻せないと思っていた幸せが、10年の時を経てまた運ばれてくるなんて、思ってもみなかった。
私は今度こそすれ違わないように、浩司に自分の正直な気持ちを伝える。

「ありがとう、浩司。
それから、ずっと言えてなくてごめんなさい。
私、あなたと結婚したかったの。初めて付き合った頃から、今まで、ずっと」

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