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Ring Story

Aqua ゆびわ言葉 ®: 純粋な心

2019.03.30

友達に恋人の話をするとびっくりされる。
10歳も年上で、アラサーよりもアラフォーの方が近い、36歳の男性…いわゆる”オジサン”と呼ばれる年齢の人が、私の相手だからだ。
でも、写真を見せると納得される。
たぶん、オジサンと言っても見た目は若いし髪型も派手だし、同世代のように見えるからだと思う。

10歳年上の恋人である正浩(まさひろ)は、行きつけのスポーツバーのマスターだ。
応援しているサッカーチームのファンが集う隠れ家のようなバーで、スタジアムで隣の席だった人がたまたまこの店の常連だったことをきっかけに、このバーの存在を知った。

正浩はバーのマスターだけど、世間一般のバーのマスターのイメージとはちょっと違う。
派手な見た目で、人と話すのが大好きで、声も態度も大きい。
昔ユースチームのエース?だった自慢話ばかりするし、くだらない冗談ばっかり言う。
でも、なんだかんだで話しやすいし、明るいので、気付けば周りに人が集まっている…そんな人だった。

正浩との距離が縮まったきっかけは、私が好きだった人が結婚してしまったことだった。

「へ? 好きって本気で言ってんの?」
「そうだよ! 悪い?」
「…いや、無理じゃん? いくらなんでも、一般人がサッカー選手と結婚するってのは」
「でも、お互い結婚してないんだから、絶対ないってわけじゃないじゃん」
「まあそうだけど…」

当時、私は応援していたチームの選手に本気で恋をしていた。

可能性が低いことくらいはわかっている。それでも振り向いてほしくて、気付いてほしくてスタジアムに通っていた。
でも、その夢は選手の結婚のニュースに、あっさり破れてしまった。

悲しくて、苦しくて、正浩の店でヤケ酒して…閉店まで泣き続けた私を、正浩は馬鹿にせず慰めてくれた。
年齢なんて関係なく、いい人だと思った…だから、「じゃあ俺と付き合ってみる?」と聞かれたとき、この人なら大丈夫な気がして、OKの返事をした。

付き合ってみると、優しくて、いろんなところに連れて行ってくれて、デートでもいつも私の希望を優先してくれた。
自慢話をするのは相変わらずだったけど、それもなんだか可愛く思えてきた。
趣味や好みは違うけど、なぜか何時間話していても飽きなくて、一緒にいてすごく気が楽な人だった。
この人と一緒にいることが、だんだん私の幸せになっていった。

だから、大好きな選手が結婚してしまった今も、私は正浩のバーに通っている。


友達に美鈴の話をすると驚かれる。
10歳も年下の彼女だから、まあ仕方ないけど。
でも、写真を見せると意外と大人っぽいからお似合いのカップルだと言われる。
何にもわかってないな、と思う。
美鈴が大人に見えるのは見た目だけで、中身はまだまだ子供だというのに。

生意気だし、年上の俺にもタメで話してくるし、俺がユースチームにいた頃の話も過去の話だと取り合わない。
美鈴はいつも正直で、無理に人に合わせたり、自分を飾ったりしない。常識にもとらわれない。
だから、フツーに考えたら付き合えるわけないプロのサッカー選手に、ガチで恋して傷付いたりもする。

選手が結婚の発表をしたその日、美鈴は閉店まで泣きながら店で飲んだ。
その日ばかりは冗談も軽口も言う気にならなかった。

その時のぐしゃぐしゃな泣き顔の彼女が、俺にはすごく綺麗に見えた。
見た目じゃなくて、こんな純粋な心を持った女の子がいるんだって、思って…それから、俺がこの子を守りたいと思った。
彼女がこれ以上、誰かに泣かされることがないように。

その後、会話の流れで交際を持ちかけてみると、意外にもあっさりOKされたので、以来俺は美鈴を守るようになった。
付き合ってみると、ますますその純粋さに惹かれた。
ずっと一緒にいたいと思った。
そしてその想いや決意を、彼女に告げたいと思うようになった。


「そろそろ結婚しようか?」

バーで飲んでいたある日、閉店と同時に正浩が突然そんなことを言いだしたからびっくりした。

「え? 本気?」
「何でそんなにびっくりするんだよ」
「だって、結婚なんて考えてると思ってなかったし…!
今日だっていきなり、そんな」

びっくりして、混乱して、涙が出てくる。
本当に結婚していいの?って思ってしまう。

「わっ、バカ、泣くな」

そんな私に正浩の方が驚いて、涙を拭こうとしてくれる。

「俺みたいなオッサンとじゃ嫌ってか」
「違うよ! 嬉し涙だよ」
「…じゃあ、これやるから泣きやめ!」

そう言って正浩が差し出してきたのは、ずっと憧れていたダイヤモンドの指輪。
バカ。本当に何にもわかってない。
不意打ちで指輪なんて差し出されたら、余計泣くに決まってるのに。

「…泣きやむなんて無理だよ、バカ」

飲んだ後で感情のリミッターが外れていたのもあって、もう、大洪水だ。

あーあ、今、私の顔、絶対に汚いよ。
そう思うのに、正浩は愛しいものでも見るかのように私の顔を見つめて、それから優しく抱きしめてくれた。

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