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Ring Story

Season ゆびわ言葉 ®: いつも笑顔で

2019.09.30

「予約した渡辺です」

ブライダルジュエリーショップの入口でスタッフの人にそう告げると、応接室に通された。
ケースに並ぶジュエリーの輝きと高級感のある店内に緊張しつつ、俺と妻は案内されるまま応接室の椅子に座る。
すると、先程の人とは別のスタッフさんがやって来て、挨拶してくれた。

「渡辺様の担当をさせていただきます、藤本です。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

俺は挨拶と同時に差し出された名刺を受け取り、テーブルの上に置く。
隣にいる妻はそわそわした様子で、藤本さんの顔と名刺を交互に見ている。

「本日は『Season』の結婚指輪が気になってgo予約されたとのことですので、早速『Season』をご案内いたしますね。
他の指輪もご案内できますので、もっとこういう感じの指輪がいい、という希望などがありましたら、どんどん仰ってください」

藤本さんはそう言って、小さな箱をテーブルの上に乗せ、蓋を開けた。
中にはサイトで見たものと同じ…いや、サイトで見たものよりもっと綺麗な『Season』の指輪が入っていた。

「おお…!」
「試着してみてもいいですか?」

藤本さんに許可を取り、指輪を試着させてもらう。
シンプルな見た目に桜の模様が描かれた指輪は可愛らしくもあり、綺麗でもあって、妻の”さくら”によく似合う。

結婚指輪は妻の名前と同じ”桜”モチーフの指輪にしたい…そう思い、探して見つけたのが『Season』だった。
他にも桜がモチーフになっている指輪はいくつもあったけど、毎日着けるには派手すぎたり、目立ちすぎたりするものが多かった。その点『Season』は桜モチーフだけどシンプルで、どんな場面でも身に着けやすい。

これから一生身に着けるなら、こういう指輪がいい。
妻の言葉に、俺は全力で同意した。

「うん…思った通り、凄くよく似合ってる」

俺がしみじみとそう言うと、「ちょっと、ヒロトも試着してよ」とさくらが笑う。

「あ、ごめん」

妻に見とれてすっかり自分のことを忘れていた俺は、そう言われ慌てて試着する。
見た目だけですっかり満足していたけど、『Season』は着け心地も凄く良かった。
指輪の構造とか詳しいことはわからないけど、とにかく着けて”しっくりくる”感じがする。

「桜の模様の色は10色からお選びいただけますので、今着けていただいているピンクと白以外の色にすることもできます。
あとは、セミオーダーとしてメレダイヤモンドを追加されるお客様も多いですね」
「え、そうなんですか。…うーん、ダイヤもいいなあ…」
「俺、青系の色にしようかなー」

気づけば俺もさくらもすっかりその気になり、そのまま『Season』を買う方向へ進んでいた。


藤本さんが契約書を取ってくるために席を外したタイミングで、さくらに俺に「これでいいよね?」と聞いてきた。

「うん、勿論。さくらがいいなら」
「私もこれがいい。デザインもいいけど、何よりこの指輪のゆびわ言葉みたいに、『いつも笑顔で』いられたらいいなって思って」
「…うん、そうだね。さくらがずっと笑顔でいられるように、俺も頑張るよ」

俺はさくらに誓うようにそう言う。
というのも、少し前に、その笑顔を曇らせてしまったことがあったからだ。

半年前、結婚したばかりの俺たちは早速、1年後に行うと決めた結婚式の準備を始めた。
手をつける前は少し億劫だったけど、いざ準備を始めると楽しくて仕方がなかった。
どんな会場でやるか、どんな演出をするか、ゲストは何人で、料理はどんなものにするか…。
考えるのも楽しいし、ブライダルフェアに行くと更にイメージが膨らんでワクワクした。

やっぱりテーマは桜がいいな。挙式も春だし、何よりさくらに一番似合う花だから。
そう思って、桜テーマの式や式場について色々調べた。資料も取り寄せて、下見にも行って、色々決まってきて…。

そんなある日、さくらに「ちょっといい?」と遠慮がちに声をかけられた。

「あのね、ヒロトがやる気だったから、言おうか迷ったんだけど…。
私は、できればもう少し、ゆっくり進めていきたい。一生に一度のことだから」
「…!」

言われてみて、初めて気がついた。
一人で浮かれて勝手に進めて、一番大事なさくらの気持ちを置き去りにしていたことを。

高校3年間ずっと片思いをしていて、卒業式の日に意を決して告白して受け入れてもらった。
大学で遠距離になっても、社会人になって忙しくなっても、いつも優しく笑って俺を支えてくれた。
さくらには頭が上がらない。いつも笑顔でいてほしいし、幸せにしたい。
それなのに…。

「ごめん!」

俺は全力で謝った。

「ごめん、なんか、楽しみすぎて気が早まっちゃってた。
…そうだよな。俺たちふたりの結婚式なんだから、ふたりで進めよう。お互いに無理のないペースで」

そこからは反省し、ふたりで話し合いながらここまで進めてきた。
指輪を探すときも、ふたりで探して、ふたりで『Season』を第一候補にすると決めて、来店予約をした。

だから、指輪を決めるときも、ふたりでちゃんと意思を確かめ合う。
どちらかの笑顔が曇ることのないように。


「お待たせしました。こちらが契約書です」

そんなことを思い出していると、藤本さんが戻ってきた。
俺は差し出された契約書を見てから、もう一度、さくらの方を見る。
さくらの優しい笑顔…そのゴーサインを確かに受け取り、俺はペンを手に取った。

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