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Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!

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Ring Story

asarina ゆびわ言葉 ®: 信じる心

2019.03.24

「え、旦那さん、今日も出張なんですか!?」

年下の友人であるアリスは、カフェで私が近況を話すなり、大きな声でそう叫んだ。

「ちょっと、声大きいって」

何事かとこちらを振り向く周囲の人に頭を下げながら、私はアリスを窘める。
彼女は慌てて「ごめんなさい」と言ったものの、気持ちが収まることはなかったらしく、再び私に詰め寄ってきた。

「え、でも、まだ結婚して2ヵ月なんですよね? つらくないです?」
「ううん、大丈夫。そういう約束だから」
「そういう約束って…? あの、ていうかそもそも、結菜(ゆいな)さんいつの間に結婚したんですか? 相手は?」
「あー、ほら、前に話したじゃん。新人研修で席が隣だった人」
「ああああ、気になる人がいるって話してた時の…? 本当にそのまま結婚までいったんですね…!」

久しぶりに会ったというのに、アリスはいきなり私のプライベートをガンガン聞いてくる。

インターネットで出会った趣味友達という間柄にしては、明らかに行き過ぎた質問だ。
まあ、アリスは既に何度も会っているし、根はいい子だし、私を姉のように慕ってくれているから許すけど。

「はいはい、とりあえず落ち着いて。順番に話すから」

私はアリスがこれ以上興奮しないようになだめながら、これまでの経緯をゆっくりと話した。


会社の新人研修で席が隣になった人が、たまたまタイプだった。
眼鏡をかけた真面目で知的な人で、研修でうっかり聞き逃した部分について尋ねたら、前後の流れから言葉の意味まで丁寧に教えてくれた。

クールだけど優しい彼に惹かれた私は、事あるごとに彼に話しかけ、仲良くなれるきっかけがないか探った。
でも、彼は本当にクールで、必要以上のことはほとんど話してくれなかった。
特に趣味については話したくないみたいで、趣味について聞いた途端無視され話題を変えられた。
だいぶ凹んだけど、それでもまだ彼のことが好きだった。

そんなある日、昼休みにテレビで坑道見学ツアーの様子が流れているのを見た。
私はただ何となく見ていただけだっただけど、隣でお弁当を食べていた彼は箸を止めて、食い入るようにツアーの様子を見つめていた。
その様子を見て、もしかしたらこれが趣味なのかもって思って、こういうの好きなの?って聞いてみたら、当たってて…。


「ちょ、ちょっとストップ! 坑道? ってなんですか?」

当時のことを懐かしみながら説明していると、突然アリスがそう質問してきた。
あー、そうだよね。完全に慣れてしまっていたけど、普段あんまり聞かないよね、坑道って。

「えっとね、鉱山とかで地下に作られる道っていうか、トンネルっていうか、そういうもののことみたい。私も全然興味なかったんだけど、話を聞いてみるとけっこう面白いよ。その土地の歴史とかもちょっとわかるし」
「ふーん…」

アリスは興味なさそうに、「で、話の続きは?」という目線を送ってきた。

…そう、彼はこうやってスルーされ、相手が冷めるのを気にしていたから話してくれなかったのだ。
でも、私はこういう、多くの人が知らないマニアックな話を聞くのが好きだ。
だから、彼の話を聞くのが楽しかった。


私が坑道についてもっと知りたいと言ったら、最初に彼は最近訪ねた坑道の写真を見せてくれた。
それからしばらくして、資料室のようになっている家にも入れてくれた。

彼の家には、彼が自分の足で集めたという坑道の地図や資料がいっぱいあった。しかも、場所や訪れた時期ごとに全てきっちり整理されていた。
私は詳しいわけじゃないから、どの資料が大事でどの写真に価値があるのかはわからなかった。でも、資料が丁寧に管理されているのを見て、彼は本当にこの趣味を大切にしているのだと思った。

私は趣味のことを聞いて、彼のことがますます好きになった。
だから、その勢いのまま彼に告白した。
彼は私を不思議そうに見つめた後、こんな俺でもいいなら、とOKしてくれて…。


「…で、そのまま結婚までいったと」
「うん」
「すごい、そんなこともあるんですね…」

アリスは不思議な話を聞いた、という反応をした後、思い出したように言った。

「…あ、それで今は、旦那さん出張中なんですよね」
「うん、ちょっと関西の方の坑道までね」
「そうなんですねー…って、仕事じゃなくて坑道に行ってるんですか!?
新妻を置いて!?」
「だから、声大きいって」

再び大声を上げたアリスを私は慌ててなだめる。
…まあ、今回は私の言い方が悪かったけど。

「うん。私が今回は行かないって言ったから。アリスと会う約束もしてたし」
「もしかして毎週末こんな感じなんですか…? 寂しくないです? 浮気の心配とかは?」
「うーん。寂しくないこともないんだけど、浮気は別に心配してないかなあ。彼のこと信じてるし、指輪でも誓い合ったし」

そう言って私は、アリスにasarinaの結婚指輪を見せる。

「珍しい形で気に入ったのと、私の誕生日が10月だからこれにしたんだけど、よく考えたらゆびわ言葉も私たちにぴったりだなって思ってる。
『信じる心』っていう、ゆびわ言葉がついてる指輪なんだよね、これ」

アリスは指輪を見て、「綺麗だと思ってたんですよねー、それ」と言ってくれた。
でも、私たち夫婦の過ごし方についてはやっぱり納得していないようだった。

「うーん、私にはよくわかんないんですけど、信頼だけでやっていけるんですね…」
「他の人は知らないけど、私たちの場合はね。私もきっと、どうしても欲しいアンティークが海外で見つかったら、旦那を置いて海外まで行っちゃうだろうし」

そんなアリスに、私は私たちが決めたルールの話をゆっくりと話す。

「『お互いの趣味に干渉しないこと、相手を信じること。』
付き合いはじめたとき、最初にそう約束したんだ。そういうルールで過ごすことが、私たちは一番落ち着くから」

部屋中アンティークだらけの私と、部屋中坑道写真だらけの彼。
ジャンルは違うけど、お互いにマニアックな趣味を持っているから、趣味が人生においてどれだけ大切なのかはよくわかる。
だから、趣味のためなら相手を快く送り出すこと。これも私は、立派な愛だと思っている。
常に一緒にいることだけが愛ではないのだ。

「あ、あとね、買ってきてくれるお土産がすごく私好みなの。
好みも合うし、一緒にいても、離れていても心地いい。
理想の旦那なんだ。私にとって、道宏(みちひろ)は」

ダメ押しとばかりにそう言うと、ずっと煮え切らない表情をしていたアリスが首を横に振り、諦めたようにこう言った。

「…なんだか、もう、それでいいような気がしてきました。
何より、結菜さん、すごく幸せそうだから」

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