Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!
二級建築士だった新人時代。
運良く雇ってもらえた人気の設計事務所で、俺と、同時期に入った早苗(さなえ)はがむしゃらに働いた。
終わらないかと思った設計をどうにか締切に間に合わせた俺達は、その後二人で飲みに行っては、いつか独立するぞ、とビール片手に言い合った。
だからその日も、俺達は行きつけの酒場にいた。
「一級建築士になって、一人前になれたら開業する!」
いつものように酔っ払いながらそう宣言すると、隣で飲んでいた早苗が言った。
「じゃあ、事務所も自分で設計しなきゃね」
「おう、もちろん!」
「建物の構造はどうする?
木造?鉄筋?それとも塩?」
「は?今なんて」
「えー、知らない?本当にあるんだよ、塩でできたホテル」
それから彼女は、大学時代に一人でボリビアを旅した時のことを話し始めた。
ボリビアにあるウユニ塩湖は、同じ世界とは思えない程綺麗で、しかも近くには塩で造られたホテルまであるのだそうだ。
信じられない風景の連続に、凄く感動したのだと言う。
…しかし、彼女がボリビア旅行の中で最も印象的だった景色は、ウユニ塩湖でも、塩のホテルでもなかった。
「でも、ラパスで見た夜景が一番印象的だったなあ。
言葉では表せないほど、すごく綺麗で…。
はー、いつかもう一回見に行きたいなあ」
酒に酔っていたせいか、その時、急に彼女が美人に見えた。
それまでは、気付いていなかったのだ。
普通の男友達のように接していた。男だらけの設計事務所で、締切前は夜も他の皆と同じように事務所に寝泊まりする早苗を、ある意味男より男らしい奴だと思っていたから。
でも、ラパスの夜景を思い出しながら微笑む彼女の横顔は、凄く綺麗で、女の子らしくて。
気付けば恋をしていた。俺が早苗を、もう一度ラパスに連れて行きたいと思った。
…それから、3年。
「おお…!」
日本から飛行機でおよそ30時間。
俺は早苗と一緒に、念願だったラパスにやって来た。
恋をした彼女は、やがて恋人になり、妻になった。
一緒に働き続ける中で、俺達は互いに励まし合い、支え合い、何でも言い合えるパートナーになった。
がむしゃらに働き、一級建築士の資格も取った。実力もついてきた。
そして俺達は、あの日の酔っ払いの冗談を現実にすることに決めた。
そう、二人で独立し、事務所を建てたのだ。
…もちろん、塩ではなく、鉄筋コンクリートを使って建てたけど。
「綺麗でしょ」
「すげ…本当に鏡になってる」
「この後のホテルもすごいよ」
「マジか、既に充分感動してるんだけど…」
ボリビアに来たからには、と最初に見に行ったウユニ塩湖で、俺は同じ世界とは思えない不思議な光景に言葉を失っていた。
ちょうど水が溜まっていたウユニ塩湖は、澄み切った空の青を反射して青に染まっている。
空と地上の境目がない。まるで、空の中を歩いているみたいな…。
本当にここは現世だろうか、俺は間違って死んだりしていないだろうか。思わず、一瞬、そんなことを疑ってしまった。
そして、早苗の言うとおり、塩のホテルも凄かった。
カウンターも壁も床もベッドも、全部塩でできているけど立派なホテルで…。
あの日冗談だと思っていた建物が本当にあり、それを実際に体験できたことに感動した。
でも、俺達の一番の目当ては、翌日の夜にあった。
ボリビア最大の都市、ラパス。
100万人近い人が住むこの都会の建物は殆どがレンガとセメントで造られていて、塗装していない住宅はレンガの赤色で統一されている。
昼間見るだけでも美しいこの町のメインは、夜にある。
標高3800mのレンガの街に光が灯るその瞬間は、まさに絶景で…。
「…すげー、綺麗」
「でしょ?」
「うん。…来れて良かった」
「私も。連れてきてもらえるなんて思わなかったから」
「そっか」
早苗はそう言ったけど、俺は彼女に恋をしたときから、ずっと決めていた。
もし結婚して新婚旅行に行くことになったら、絶対に早苗とここに来て、この景色を見よう、って。
「本当に嬉しい。
初めてこの景色を見た時、すごく感動したけど…実は、ちょっと失敗したなあって思ったんだ」
「失敗したって、何を?」
「あまりに綺麗だから…誰かとこの感動を分かち合えばよかった、って。
一人旅もいいけど、二人旅は二人になった分だけ倍になる気がする。楽しいことも、嬉しいことも」
そう言う彼女の横顔は、3年前よりもっと綺麗になっていた。
「イライラも倍、ケンカも倍だけどね」
「でも、ぶつかり合えばスッキリするから」
早苗はそう言って笑い、左手をラパスの夜景に翳す。
「ありがとね。指輪も、景色も」
この都市の名前はラパス。そして、彼女が左手に付けている2つの指輪の名前も『lapaz(ラパス)』だ。
プロポーズの時に、いろんな店の婚約指輪をネットで探した。
この指輪を見つけた時、生まれて初めて運命というものを感じた。
プロポーズ当日、俺はlapazの指輪を早苗に差し出し、伝えた。
『夜景を作り出すひとつひとつの光のように、毎日帰りたい温もりの光があふれる家庭を築いていけますように。』
この指輪はそんな想いが込められた指輪で…そしてそれは、俺の想いでもあると。
早苗は喜んで受け取ってくれた。そしてその後、結婚指輪も同じlapazの指輪で揃えた。
その日から、早苗の薬指には、2つの『lapaz』が輝いている。
「おう」
「キラキラしてて、眩しいけど、温かい…この街と指輪の光が好きなの」
「…俺は?」
「和明(かずあき)も」
「ついで?」
「ついでじゃない。いなきゃダメ」
そう言って俺の方を振り返る早苗を、俺はぎゅっと抱き寄せる。
「じゃあ、今度は夜景じゃなくて、俺を見て」
俺も早苗がいなきゃダメだ。これからもずっと、早苗が俺の帰るべき場所であってほしい。
真っ直ぐで飾らない彼女こそが、俺の守るべき光だから。
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