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Ring Story

first star ゆびわ言葉®:ラッキー

2017.10.15

「詩織、お待たせ」

夕暮れ、図書館の隣の小さな公園のベンチに座って本を読んでいると、司書の仕事を終えた和彦に声をかけられた。
私は読みかけの本を閉じてバッグにしまい、ベンチから立ち上がる。

「じゃ、吊るしにいこうか」
「うん」

彼が差し出してくれる手を取り、私達は手を繋いで歩く。

目的地であるスーパーは、小さな川の向こう側にある。
川を渡るため、二人で橋の上を歩いていると、和彦がふと思い出したように「今年はちゃんと持ってきた?」と聞いてきた。

「だ、だいじょうぶだよ!」

私はそう答えつつも、念のためバッグの中に短冊が入っているのを確認する。
…そう、今日は七夕。だから、私達は近所のスーパーの笹に短冊を吊るしに行こうとしているのだ。
去年は書いた短冊をなくしちゃったりもしたけど、今年は大丈夫。願い事も既に書いてあるし、あとは吊るすだけだ。

私がそう意気込んでいると、空を見上げていた和彦がふと「あ、一番星」と呟いた。

「ほんとだ!」

彼の視線を追うと、点のように小さく、きらりと光る星がひとつ見えた。
私は七夕の一番星を見ながら、そういえば保育園の頃、七夕の日だけおやつに出てくる、お星さまの形をしたデザートが楽しみだったことを思い出し、和彦に話す。

「あ、星の形といえば、私、小さい頃から星マークのものが好きだったんだよね。今バッグについてる星のキーホルダーも、小学生の時におばあちゃんに買ってもらったやつなんだ」
「え、ペンケースとかも星マークだった気がするけど、それも小学生の時から使ってるの?」
「うん、あれはお母さんに買ってもらったの。気に入ってるからずっと使ってる」
「そっか…じゃあさ、詩織。
これも受け取って、大事にしてくれる?」

和彦は突然立ち止まり、私の前に、星の形をしたとっても可愛い指輪が入った箱を差し出した。

「え、プレゼント?嬉しい…!」

私は喜んで受け取り、箱の中から薄くピンク色に輝く指輪を手に取った。指輪の中心に煌めくダイヤモンドは、今まで見たことないくらいきらきらしていて、眩しい。
すごい、本物みたい、と私が感動していると、困ったような顔をした和彦が呟いた。

「あの…一応、婚約指輪のつもりなんだけど」
「え!? え、じゃあこのダイヤ、本物…?」
「もちろん」
「ええ!? 受け取れないよ、こんな高価なもの」
「ううん、受け取ってほしいんだ。君は僕の、一番星だから」
「嬉しいけど、でも…」
「『これを見たあなたが、素敵な一番星を見つけられますように。』」
「!」

彼が言った言葉は、去年私が短冊に書いたもの。
スーパーの笹に吊るそうと思っていたのに、間違えて借りていた本に挟んで、なくしてしまった短冊。
その後、彼が見つけて…代わりに吊るしてくれた短冊に、書いていた言葉だ。

「…本当に見つけられたから、その気持ちを伝えたくて」

彼は私の手から指輪を取り、そっと左手の薬指に通してくれる。
きらりと輝く、星の指輪…まさか私も、こんな素敵な指輪をくれる人に、出会えるとは思わなかった。

「嫌だった?」
「ううん…ありがとう。こんな素敵なラッキーが起こるなんて、私、思わなかった」
「僕もだよ。ありがとう、詩織」

そう言って、彼は私を抱き寄せ、私達だけの小さな天の川の中心でキスをした。

ーー『ずっと一緒に、ふたりで天の川を渡れますように。』
今年の短冊はまだ吊るせてないけど、この願い事もきっと叶う気がする。
自分だけの一番星…世界で一番のラッキーに出会えた、私達なら、きっと。

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