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「シャモ」
今日も僕は水族館のプールで、目の前のイルカに話しかける。
シャモという名前のイルカは、返事代わりに水の上から頭だけ出した。
「こんにちは」
シャモに向かってお辞儀をすると、シャモも一緒にお辞儀をする。
「よーし、えらいぞ」
手を上げると、シャモも体を起こす。
そしてエサの魚を一匹あげて、次の指示をしようと…したけれど、食いしん坊のシャモは魚をあげた途端、餌が入っているバケツにしか興味がなくなってしまった。
「…うーん、どうしたらいいかなあ…」
水族館のイルカ担当になって1年。
最初よりは訓練もできるようになってきたけど、それでもシャモのような若いイルカの訓練は大変で、なかなか上手くいかない。
先輩が訓練するときは、ちゃんと動いてるのになあ…。
「今回は一人で頑張ってみろ」と言われ頑張っているけど、やっぱり動物と心を通わせるのは難しい。
一朝一夕にできることではないと思いつつも、何度やっても上手くいかず、思わず凹んでしまう。
小さい頃から、海の生き物が大好きだった。
ハンドウイルカにジンベエザメ、マンボウ、シャチ…水族館で見られる生物たちの雄大で美しい姿に惹かれていた僕は、将来は絶対水族館のスタッフになると決めていた。
今の水族館に就職してからはいろんな生き物を担当したけど、1年前にイルカの担当になった時は、胸が踊った。
イルカショーはうちの水族館の目玉だし、イルカ担当のチームには尊敬する先輩もいた。
何より、小さい頃に見て感激したイルカたちと、触れ合えることが嬉しかった。
「そう、嬉しかったんだけど…」
現実は甘くなく、先輩に従うシャモは、僕の指示はまったく聞いてくれない。
先輩が上手すぎるのか、僕がダメなのか…。
「はあ…」
「洋介」
落ち込んでいると、少し離れたところから声をかけられた。
「絵里奈」
「またシャモに嫌われてるの?」
「うん、まあね…」
絵里奈にそう言われ、僕は苦笑いをする。
イルカたちと上手くやっていけないのはつらいけど、上手くできなくて良かったことが一つだけある。
この水族館の常連である妻・絵里奈と結婚できたことだ。
イルカの担当になってまだ一ヶ月くらいの頃、イルカたちは今よりもっと僕の指示を聞いてくれなかった。
憧れだったイルカ担当になれた直後だっただけに、当時は酷く落ち込んでいて…。
そんな時に声をかけてくれたのが、絵里奈だった。
「あの、一ヶ月前よりはずっと仲良くなれている気がします!
自信を持ってください!」
絵里奈は水族館のスタッフではないけど、うちの水族館のファンで、ほぼ毎日来館するお客さんだった。
中でもイルカが好きで、イルカたちの成長や訓練の様子を見るのが楽しみらしい。
イルカ担当になってすぐに、彼女とは顔なじみになっていた。
それから少し経った、ある休みの日。
少しだけイルカたちの顔を見ようと職場に行くと、ちょうど入館するタイミングだった絵里奈と出会った。
僕は彼女にお礼を言い、元気をもらったと伝えた。
すると彼女は、「私もあなたに元気をもらっていたから、お役に立てて良かったです」と答えた。
いつも仕事帰りに水族館に寄り、癒されていた絵里奈は、新人イルカ担当の僕が頑張る姿に元気をもらっていたのだという。
空回りしているだけだと思っていたけど、彼女の力になっていたなら、上手くいかない日々も無駄じゃない気がして嬉しかった。
水族館を案内しながらお互いのことを話しているうちに、僕と絵里奈は自然に仲良くなった。
そして交際をはじめ…先月、彼女の誕生日に入籍した。
結婚式を挙げない代わりに、僕たちは入籍してすぐに結婚指輪を買った。
その名も『PEACE』。
本当はもっとシンプルな指輪にしようと思っていたけど、イルカモチーフの指輪と聞いた瞬間に、これしかないと思った。
絵里奈も同じ気持ちだったようで、すぐに同意してくれた。
丸みのある指輪は見た目もつけ心地も優しく、この指輪と出会えて良かったと思った。
「洋介。シャモ、エサを欲しがってるみたい」
「…まったく、食いしん坊なヤツだなあ」
シャモがエサをよこせと鳴いてくるので、僕は「じゃあ、これができたらな」と言って、エサのししゃもをシャモの目の前に高く掲げた。
名前の由来になっているほどししゃもが大好きなシャモでも、普段はこれだけ高さがあると「もっと低いところに置け」とばかりに動かない。
でも、今日は気分が乗っていたのか…目の前で思い切り高くジャンプをし、エサのししゃもを奪い取った。
「わ、すごいすごい!」
初めて見るシャモの大ジャンプに、絵里奈は思わず拍手をする。
「こいつ、急にデレやがって」
急に頑張るようになったシャモに、僕は思わずそう呟く。
まったく、こっちの努力も知らないで、気まぐれなやつだ。
でも、気まぐれな彼らが振り向いてくれて、お客さんが喜んでくれる…こういう瞬間が一番、スタッフをやってて良かったって思えるんだよなあ。
「どうだ、見たか」とばかりに手を叩いてアピールするシャモと、シャモのアピールに喜ぶ絵里奈を見て、つい頬が緩んでしまう。
まだ、ショーに出せるほど上手に訓練はできない。
そんな頼りない僕だけど、絵里奈は側にいてくれる。シャモもたまに応えてくれる。
ふとした嬉しい瞬間に、こうしてふたりで笑い合える。
こんな日々を大切に、ゆっくり歩んでいこうと思う。
『PEACE』のゆびわ言葉のような、『穏やかな人生』を。
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