Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!
自宅と職場の中間地点に、とあるバス停がある。
通勤には電車を使うので、あまりバスには乗らない。でも、たまにそのバス停で降りて、寄り道をすることがある。
そこに、私のお気に入りのフレグランスショップがあるからだ。
―プシュー…
今日も私は、そこでバスを降りる。
見慣れたビル、コンビニ、ケヤキ並木…。ここに来ると、いくつかの香りを思い出す。
最初に思い出すのは、深みのあるウッディだ。
バス停から降りたとき、目の前を真っ直ぐ横切っていったスーツ姿の男性から、ほのかにウッドベースの香りがした。
早足だったから、すぐに通り過ぎてしまったけど…細身で、背が高くて、眼鏡をかけていて…横顔は若かったような気がする。
胸がときめいた。かっこいいな、と思った。
後ろ姿をしばらく目で追っていたけど、すぐに消えてしまった。
残り香もなく、幻みたいだと思った。
でも、確かに目の前を…。なんだか、考えているとどんどんドキドキしてくる。
落ち着かせようと私も早足でショップまで歩いた。
でも、気がつけばショップの中でさっきの人と同じ香りを探していた。
メンズ用の香水のコーナーをこんなに真剣に見たのは、生まれて初めてのことだった。
2つ目に思い出す香りは、爽やかなフレッシュ・シトラス。
その時の男性と、次の日ばったり再会した。
なんて言うとまるでドラマみたいだけど、偶然でも何でもなくて、ずっと知らなかっただけで実は同じ会社の人だった。
「あの、俺に似合う香水とかって分かりますか?」
その人にそう声をかけられて、一緒に探しに行くことになった。
昨日もつけていたのにどうして…と思ったけれど、話を聞くと昨日は偶然、上司から香水を借りていたのだという。
それで自分も良い香水を探したいと思ったところ、”香水の学校に通っている、香水に詳しい人”として私を紹介されたのだそうだ。
確かにフレグランススクールに通ってはいるけど、香水には全然詳しくない。
それでもいいなら…と前置きすると、彼は「いいです、それでも全然!一人だと選べる気がしないので…!」と言い、「ありがとうございます!」とまだ選んでもいないのに全力で感謝された。
その日の終業後、昨日も行ったフレグランスショップのメンズ用香水コーナーで、彼に合う香水を二人で探した。
好きな香りを選んでもらいつつ、ビジネスシーンに合う香水ということで、最終的にフレッシュ・シトラスの香水に落ち着いた。
帰り道、彼がバス停まで送ってくれた。
バスが来るまで時間があったので、少し話をした。
「自分に自信がないんです。俺、体力も無いし、要領も悪いし。だから毎日、残業ばかりで。
…だから、ちょっとでも自分に自信をつけられないかなって」
肩を丸めてそう話す彼に、私は昔の自分を思い出し、重ねる。
「…私も、そうでした。いや、今も自分に自信があるわけではないんですけど…」
私も、昔はもっと自分に自信がなかった。
可愛いわけでも、頭がいいわけでも、コミュ力が高いわけでもない。
みんなと比べて、私は…そう落ち込むこともたくさんあった。
「でも、香水をつけていると、どんなときも自分らしくいられるというか…辛いときでも、パッと気持ちを切り替えられるんです。
フルーティやバニラ系の香水をつけるとリラックスできるし、オリエンタルみたいな、大人っぽい香水をつけるとキリッとしようって思う。
他の人は、何もなくても気持ちを切り替えられるのかもしれないけど…私にとっては、香水は自分らしく前向きに過ごすのになくてはならないアイテムなんです」
「なるほど…」
過去のことを思い出しつい力説すると、彼は納得したように頷き、宣言した。
「じゃあ、俺も頑張ってみます。
毎日、自分らしく前向きに過ごせるように」
その後すぐにバスが来て、私は彼に見送られながらバスに乗った。
家に向かう車内で、さっきまで会っていた彼の横顔を思い出す。
予想していたようなクールな人ではなかったけれど、すごく真っ直ぐで、かっこいい人だな、と思った。
3つ目に思い出すのは、ほのかなオリエンタルの香りだ。
その後色々あって、彼…慎吾と交際をはじめた。
色々なところに出かけて色々なことを話したけど、話題の中心はいつも香水のことだった。
だから、1年も経つ頃には、すっかり彼も香水に詳しくなっていた。
「今日、なんかいつもと違わない?」
ある日のデートで私がそう尋ねると、「うん、ちょっと気合いが入ったやつにしてみた」と返事が返ってきた。
今日の彼の香水はオリエンタル系の人気の香水だった。
普段あまり嗅ぐことのないスパイシーな香りが、心地よく鼻をくすぐる。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
その頃私達は、毎週日曜日だけ、こうして2人きりで会ってデートしていた。
日曜日にしか会わない理由は、彼が土曜も休めないのと、職場バレしないようにするため。
噂が立つと仕事がしにくくなるからと思ってそうしていたけど、せっかく同じ職場にいるのに、週に一度しかこうしてそばにいられないのは寂しい。
だから、その日の帰り道、バス停でバスを待つ間のわずかな沈黙が辛くなって、私は思わず呟いてしまった。
「…結婚、したいなあ」
そうすれば、時間も周りも気にすることなく、一緒にいられるのに。
「え?」
「…あ、いや、えっと」
「…本気にしていいの? 」
「え?」
彼に聞き返され、どう誤魔化そうか悩んでいたら、予想外の返事が返ってきた。
「結香が結婚したいなら、結婚したい。
なかなか言い出せなかったけど…前から、将来のことも真剣に考えてたし」
「本当?」
「うん。ごめん、俺から言い出せなくて…まだまだ自信、つかなくて」
「ううん」
“自分らしく”でいい。
真剣に考えてくれていたこと、そしてその気持ちを伝えてくれただけで、充分嬉しい。
「…ごめん、じゃあ、改めて。
結婚しよう、結香」
その日、私は初めてバス停の前で、乗る予定のバスを見送った。
バスが来たことに気づかないほど、嬉しくて…幸せだったから。
―プシュー…
これまでにここで感じた様々な香りを思い出していると、反対側のバス停から、出張帰りの慎吾がやって来た。
信号を走って渡ってくる。目の前まで来ると、彼からいつもと違うほのかなフローラルの香りがした。
「さっきつけたばっかり。結香、この香水の最初の方の香りが好きだったなって思って」
「…覚えてたんだ」
「うん。
そうだ、もらってきたよ。選んだ指輪」
プロポーズを受けた後、やっぱり指輪を贈りたい!と彼が申し出てくれたので、一緒に婚約指輪を探した。
その中でお互い一目で気に入ったのが、『Parfum』という名前の指輪。大阪・梅田でしか取り扱っていない指輪だったけど、丁度慎吾が大阪に出張に行くことになったので、「買ってくるよ」と言ってくれた。
『しあわせ香る』というゆびわ言葉を持つ『Parfum』の指輪をつける。
ここで受け取りたかったのは、ここにたくさんの思い出の香りが残っているから。
そして、ここからまた、たくさん『しあわせの香り』を感じていたいからだ。
「ありがとう」
彼に抱きつくと、彼も私を優しく抱きしめ返してくれる。
ケヤキ並木の前のバス停で、また一つ、幸せな思い出の香りが増えた。
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