Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!
海の向こうから、娘の凛が男を連れて帰ってきた。
「お父さん、私、この人と結婚したいの」
もう26歳になる娘だ。結婚に対してうるさく言うつもりはなかった。
しかし…。
「駄目だ」
連れてきたのがインド人の男で、これから彼と一緒にインドで暮らす、なんて言い出されたら、父親としてすぐに許可を出すわけにはいかなかった。
大学で外国語を学んでいた凛は、東京の会社に就職し、数年前からインドにある支社で働いていた。
田舎にある小さな港町でずっと生きてきた俺には想像もつかないが、きっと娘にとって都会や海外は、良い刺激がたくさんある楽しい所なのだろう。
凛がやりたいことをやって生きていけるのが一番だと思い、大学進学には反対しなかった。
海外への出張も、不安はあったが本人の意思を尊重して送り出した。
だが…出張や旅行ならともかく、海外へ嫁ぎ相手の家で暮らしていくというのは、流石に賛成できなかった。
異国の人間が、現地で相手の家族として、嫁として暮らしていくのは想像以上に大変な事だ。
幾ら本人にやる気があっても、文化が違えば勝手が違う。
相手の家族と上手くやっていけないかもしれないし、日本人というだけで現地の人に不当な扱いを受けたり、凶悪事件に巻き込まれたりしてしまうかもしれない。
何より、何かあったときにすぐに日本に帰って来ることができないし、俺も駆けつけることができない。
…そんな、何が起こるかもわからない異国の地に大事な娘をやらなければいけないなんて、とてもじゃないが考えられなかった。
「ねえ、何でダメなの? 彼がインド人だから?」
「……」
凛は、俺が何度駄目だと言っても諦めず、どうにか説得しようとしてきた。
「私は、インド人だから彼を選んだんじゃない。この人が好きだから、一緒にいることを選んだの」
「…駄目なものは駄目だ」
「お父さん!」
「どうしても結婚したいなら、日本で暮らしなさい。インドで暮らすというなら、結婚は認めない」
「そんな…! 彼はお母さんや足の悪いお祖母ちゃんや、インドにいる家族皆を支えてるの。こっちで生活なんてできないよ」
「じゃあ別れなさい。日本にも男はいっぱいいる」
「だから、私は彼がいいの!」
一度も反抗したことのなかった娘に気持ちをぶつけられ、心が痛む。
すまない。だが、こればかりは認めるわけにはいかない。
凛。父親のたったひとつの我儘を、どうか受け入れてくれないだろうか…。
凛はずっと家に泊めていたが、一緒にやって来たインド人の男の方は絶対に家に入れないようにしていた。
何度も何度も追い返したが、ある日、彼は家に来るなり頭を下げ、拙い日本語で謝罪の言葉を述べた。
『コンナ事ニナッタノハ僕ノセイデス、本当ニゴメンナサイ。』
その通りだ、と俺は言い追い返そうとした。しかし彼は、
『デモ、彼女ヲ幸せニシタインデス。オ願イシマス、オトウサン』
と、何度も途中でつっかえながら言葉を続けた。
手には紙を握りしめていたが、話す間、一度もその紙を見る事はなかった。
紙にはひらがなと、それに対応するローマ字が書かれているのが微かに見えた。
きっとこれを伝えるために、彼は必死に日本語を練習したのだろう。
努力する彼を「娘をたぶらかした男」と憎む事もできず、俺は自分の立場に苦しんだ。
結局、最初に折れたのは妻の方だった。
娘の幸せそうな顔を見て止められないと悟った彼女は、結婚を認めてあげて欲しい、と俺に言った。
「本人にだって不安はあるでしょう。でも、それでも嫁ぐと決めたんです。だから私たちは、応援してあげなくちゃ」
認めるしかないことは、俺にも分かっていた。
しかし、素直に認められなかった。
どう切り出せばいいかわからず、悩みながら朝まで飲んだ。
結婚して30年、色々なことを乗り越えてきたが、こんなに深酒をしたのは初めてだった。
翌日、凛が連れてきたインド人の男、サンディープを家の中に入れ結婚の許可を出した。
すると二人は、インドに行く前に身内だけで結婚式を挙げたいと言った。
10人程しか参列者のいない小さな式だった。
会場となったホテルの壇上で、凛とサンディープは指輪を交換した。
ストライプのような模様の指輪だった。
「船のロープをモチーフにした指輪なんですって。『これからどんな荒波が来ても、ずっと固く結ばれているように』って選んだそうよ」
「そうか」
妻の言葉に返事をしながら、俺は二人の薬指に納められた誓いを見つめる。
海の向こうから帰ってきた娘は、これからまた、海の向こうへと旅に出る。
その長い航海の中では、これからきっとたくさんの荒波が襲いかかるだろう。
しかし、それでもやっていくと誓った娘を、俺は送り出すことにした。
本音を言えば、不安は尽きない。寂しさだって、勿論ある。
だが、娘はもう大人だ。
ウエディングドレスがよく似合う、立派な大人になったのだ。
パートナーと手を取り合い、遠い海の向こうで幸せに生きていくと決めた…そんな娘の良き日を、今日は祝おう。
世界一愛しい、娘の門出と成長を。
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