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Ring Story

Euphoria ゆびわ言葉 ®︎: 君さえいれば

2019.12.18

「続いて、新婦の入場です」

結婚式当日。
バージンロードを歩きながら色々な思いがこみ上げてきた私は、一瞬、幸せすぎて、この光景はやっぱり夢なんじゃないかと思った。

過去に恋人がいたことは何度もあるけど、全部長続きしなかった。
理由は主に、私の仕事が忙しいからだ。仕事が忙しくなるとついそっちに集中してしまい、恋人のことを疎かにしてしまう。
でも、それは忙しいからであって、決して恋人が大切じゃないわけではないし、気持ちが冷めたとか、嫌いになったというわけではない。
だけど…。相手にとってはその私の行動は充分に”冷める”ものらしい。
気づけば浮気されたり別れを切り出されたりで、その度に悲しくなったし、私には恋愛は無理だと思った。

でも、一生一人で生きていくのは、寂しがり屋の私には耐えられない。
安心できるパートナーがほしい。病めるときも健やかなときも、共に支え合える恋人がほしい。結婚したい。できるだけ早く、できれば20代のうちに。

少し焦りを感じはじめた、20代後半…そんなことを思っていた私の前に、思わぬ希望の光が舞い降りてきた。

「明奈(あきな)」

それが、バージンロードの先で、私の名前を呼ぶ慎(しん)だった。


慎は元々、取引先の企業で働く営業マンだった。
私が勤める会社に来たときに何度か会ったことがあるけど、いつも爽やかに挨拶をしてくれる人で、見かけるとつい目で追ってしまう、気になる人でもあった。
仕事もすごくデキるらしい。彼と商談をした部署の人は、以前、「いつの間にか一つ上のランクの商品を買わされてるし、でも全然それで損したって思わないんだよなあ」と言っていた。

そんな気になっていた彼が、ある日うちの会社に転職してくることになり、運命を感じた。
しかも、同じ部署で、営業事務として働く私がペアを組む相手に選ばれたのだ。運命を感じずにはいられなかった。

交際をはじめてから、慎はプライベートでもデキる人だということを知った。
彼は自分と私のスケジュールを共有し互いに把握した上で、「この日はどう?」とデートする日を提案してくれた。
忙しいのに連絡も欠かさずしてくれて、何よりいつも私の気持ちややりたいことを優先してくれた。

忙しさを理由に、浮気や別れを選ぶ過去の恋人たちとは全然違う。
こんなに安心できる人ははじめてで、この人しかいない、この人と幸せになりたい、と強く思った。


「続いては、指輪の交換を…」

誓いの言葉が終わり、指輪を交換する。
慎は、プロポーズも結婚指輪選びもスマートだった。

彼は、皆が着けている有名ブランドの王道の指輪…ではなく、まだ周りには着けている人のいない素敵なブランドの最新作の婚約指輪で、私にプロポーズしてくれた。

「他に着けてる人がいない指輪にしたくて」

それから、その指輪に名前と『ゆびわ言葉』があることを教えてもらった。

「名前は『Euphoria』。幸福感・多幸感という意味があって、『君さえいれば』っていうゆびわ言葉がついてるんだ。
『どんな事も君さえいれば満たされる』…他に着けてる人がいないっていうのもあるけど、何より俺の明奈への気持ちにぴったりだと思って、これにしたんだ」

その指輪のダイヤモンドの煌めきと彼の言葉に感動して、結婚指輪も同じシリーズのものにした。
結婚指輪も細身で綺麗で、私の薬指まで綺麗に見えるほど素敵な指輪だった。

職場に着けていくと、綺麗な指輪だと皆に褒めてもらえた。
それも嬉しかったけど…一番嬉しいのは、プロポーズされて結婚するという夢みたいな現実が、目に見える形として受け取れたことだった。


指輪交換後も式は滞りなく進み、披露宴、二次会まで無事終わり家に帰ってきた。
本当に、人生で一番幸せな一日だったけど、ずっと気を張っていて疲れた。
思わずソファーに倒れ込みそうになり…ああそうだ、まだ今日のお礼の連絡もしてないし、いただきものも整理してない、と思い堪える。

「連絡だけでもしなきゃ…」

そう呟くと、後ろからやってきた慎が私の荷物を部屋に運びながら言った。

「俺がやっとくから明奈は寝なよ」
「え、でも」
「いいから。花嫁は早くおやすみ」

荷物ついでに私の体も持ち上げられ、部屋に運ばれてしまう。

「ちょっと…!」

一応抗議の声を上げたものの、慎は無視して私をベッドの上に降ろし、布団をかけてドアを閉めてしまった。

「…はぁ。
申し訳ないなあ…」

私はドアの方を見ながら溜息をつき、助かるけど、いつも申し訳ないな、と思う。

振り返れば、いつもこうして慎に助けられてきた。
式の準備の間も、他のことで忙しくて、遅れていた業者さんへの連絡を慎がやってくれた。
会場選びも、ゲストの人数や席次もずいぶん悩んだ。でも慎に相談して、話し合えたおかげで、皆が満足してくれる式にできた。

「…慎のおかげだ」

無事に式を終えられたのも。
式を挙げられたのも。
今こんなに、安心感があるのも。疲れたけど嬉しくて、幸せな気持ちになっているのも。

「ああ、幸せだなぁ…」

呟くと、心が温かくなって、眠気が襲ってきた。
私はうとうとしながら右手で左手薬指の指輪に触れ、呟く。

「…ありがとう、慎」

私と結婚してくれてありがとう。
安心と、幸福をくれてありがとう。

「…ありがと……」

そんな気持ちを慎に伝えたかったけど、眠気に勝てず言葉が出てこない。

「…慎……」

しょうがないから、代わりに夢の中で伝えることにしよう。
夢の中にも、慎がいてくれるといいな。

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