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corona ゆびわ言葉 ®:君に会えた奇跡

2019.01.06

小さい頃から、お姫様に憧れていた。
私がテレビで見ていたお姫様は、優しくて、美しくて、強くて、かっこよかったから。
中学の時に初めて出会ったロリータ服は、私をそんなお姫様に少しだけ近づけてくれる魔法の服だった。

そんな、ほんの少しの憧れから始めたロリータファッションに、私はすぐにハマっていった。
ハマればハマるほど満足できなくて、完璧なお姫様に見えるように、たくさん研究した。
小物を集めたり、メイクの本を買ったり、他のロリータさんの写真を見て勉強したり…。
最初はお金がなくて好きなブランドの服を揃えられなかったけど、バイトで貯めたお金をつぎ込むうちに、少しずつ揃えられるようになった。
20歳になる頃には数種類のコーディネイトができるようになり、街を歩くのが楽しくなった。

その頃には周りの視線が冷たくなってきていたけど、そんなのは気にしない。
好きな服を着るのがファッションの醍醐味だ。
だから私は、社会人になってからも、休日はロリータファッションを楽しみ、平日は休日のロリータファッションを楽しむために働いていた。

…そんな毎日だったし、こういう格好が好きな異性と出会う機会もなかったから、恋愛なんてできないと思っていた。
でも、運良く相手ができて、結婚することになった。


好きな服を着るのに躊躇しない私でも、さすがに躊躇した。
目の前にあるガラスケースの中の、王冠の形をした婚約指輪がいくら最高に好みで、欲しい!って思うものだとしても…ここはもっと落ち着いた感じの、他のデザインの指輪にした方がいいのかな、って。

だって、婚約指輪は自分で買うものでも、自分だけのものでもない。
彼と私が結婚するという証であり、彼からの想いの形だ。
それに、一生身につけられる高価なものでもあるし…そんな大切なものに私の趣味ばかり反映させるのは、やっぱり違う気がする。

「これがいいなら、これにしようよ」

そう思っていたのに、隣にいた彼は私の顔を見て、あっさりとそう言った。

「え」
「これが気に入ったんでしょ? 顔に書いてある」
「いや、でも…嫌じゃない? 陽馬(はるま)の趣味じゃないでしょ?」
「僕じゃなくて、真希がつけるものだから。真希が好きなものが一番いいよ」
「でも…」
「真希は可愛いし、似合うから大丈夫」

そう言ってくれる彼に出会えたのは、奇跡だとしか思えない。


2年前のある日曜日、いつも通り姫ロリスタイルで駅前を歩いていたとき、私は偶然彼に出会った。

「あれ、もしかして、事務の明戸(あけと)さんですか?」

声をかけられてびっくりした。
声の主は、確かに私が事務として勤めている病院の患者さんだ。
でも、働いている時とは服もメイクも全然違うし…何より、今の格好の私に普段通りに声をかけてくれたことにびっくりした。
本来はそうあってほしいところだけど、こんな格好をしていると、普通に接してもらえることはなかなかないから。

「は、はい」
「ああ、やっぱり。そんな気がしたんです」
「…あの…」
「可愛いですね、その服」
「え?」
「似合ってます」

あまりに自然に言われたので、思わず聞き返してしまった。
その声と言葉の中には、これまでたくさん聞いてきたお世辞や嘘を、何一つ感じなかったから。

立ち止まったままでいると、徐々に通りがかる人の視線を感じるようになってきたので、私は彼の手を引き、近くのカフェに入った。
何故私だと気付いたのか聞くと、顔立ちや仕草が受付にいる私と似ていたからだと言う。

この格好についても聞いてみた。20代でこんな格好をしている女性はイタイ、という人はとても多い。
でも、彼は私の質問に対し「うーん」と少し考えた後、「そういう感覚、よくわからないんですよね」と困った表情をして言った。

「人の服装を否定したい理由がよくわからない、というか」
「…」
「そりゃあ、誰でも好き嫌いはあるでしょうけど…例え自分が嫌いな服装だとしても、それがその人の服装を否定する理由にはならないですし」

正直で偏見を持たない彼に驚いたと同時に、すごく惹かれた。
趣味を認めてくれる人と出会えたことが嬉しくて、気づけば私は、自分のファッションのこだわりやこれまで集めてきたアイテムの話を、今日初めてお茶した人を相手に熱く語ってしまっていた。

彼は迷惑に思うどころか、興味深そうに私の話を聞いてくれた。
彼が話す趣味の本の話も、すごく面白くて…それからは交際までも結婚までも、あっという間だった。


指輪を選んだその帰り道。

「本当に、奇跡みたい。理解ある人に出会えるなんて思ってなかったから」

私が改めて感動を噛みしめていると、隣を歩く彼は心底不思議そうに言った。

「そんなに感動することかなあ。ずっと前にも話した気がするけど、僕は誰がどんな格好してたって、その人はその人としか思えないよ」
「その反応が珍しいんだよ。私にとっては、二十数年生きてきて初めて起きた奇跡なの」
「二十数年に一度、か。コロナみたいだね」
「コロナ?」

確か、選んだ指輪の名前も『corona』だったような。

「皆既日食の時に見える、太陽の一番外側の層のことをコロナっていうんだ。滅多に見られないし、見られても数分間だけの、奇跡みたいな光」
「奇跡みたいな光…」
「まだ動画でしか見たことないけど、すごく神秘的で、眩しく見えるんだ。
趣味の話をしている時の、真希みたいに」
「何、その例え」
「僕にとっても、奇跡だってこと。真希と出会えたことは」


貴族でもなければ、白馬に乗ってやって来たわけでもない。
でも、私を大切にしてくれる彼は、私にとって間違いなく王子様で。
そんな王子様から、王冠の形をした指輪をもらった時…私は生まれて初めて、ずっと憧れていた、本物のお姫様になれたような気がした。

corona ゆびわ言葉 ®:君に会えた奇跡

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