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高価な指輪が並ぶガラスケースを目にしても、隆太(りゅうた)の表情は入店前と何一つ変わらなかった。
「…」
隆太は殆ど無表情で、エンゲージリングやマリッジリングが並ぶケースを端から順に眺めていく。
慌てて私もついて行くと、店員さんがやってきて、いくつかのリングをお勧めしてくれた。
しかし彼は無表情のまま「こういうの、俺、よくわかんないんですよね」と答える。
こういうの、もし私が店員さんだったら、やりにくいだろうなあと思う。
でも、店員さんは私とは違い、慣れた感じで他のリングを更にいくつかお勧めしてくれた。
その中の一つを見て、隆太の目の瞳孔がわずかに開いた。
(あ、興味あるんだ)
彼のそのほんの少しの変化に、私はそんなことを思う。
隆太は小さい頃から、何を考えているのか読めない人だった。
表情は殆ど変わらない。
好きなものも、好きな人も、「わからない」と言う。
でも、気付けば同じ本やテレビ、同じ曲を何時間も繰り返し聴いている…そんな不思議な人だった。
当時幼稚園の年中さんだった私は、そんな彼に興味を持った。
きっかけは何でもなくて、ただ割と積極的に誰にでも話しかける方だったから、話しかけても反応しない彼を、どう振り向かせるかいっぱい考えるのが楽しかったんだと思う。
最初は、ボールを持って一緒に遊ぼうと誘った。でも反応してくれなかったから、男の子ならこれは好きだろうと、他の子から借りた変身ベルトのおもちゃを持っていった。
それでもダメで、今日は諦めようと思ったとき、彼が突然「それなに?」と私に聞いてきた。
隆太が指さしたのは、私がおままごとに使おうと持っていたおもちゃのブロック。
彼の目がそのときだけは、ほんの少しだけ大きくなった。
それ以来、私は隆太の好みを瞳の大きさで判断するようになった。
他の人が見てもわからないくらい、小さな変化だ。
でも、見続けていればわかる。
意外と彼は単純で、意外と好みが顔に出る、ということが。
「ねえ、それいいんじゃない?」
だから、彼の瞳が変わったときは、さりげなくそう言うことにしている。
学生の頃も、ずっとこうしてきた。
隆太は自分からは何も欲しがらなかったけど、友達が持っている漫画やゲームに、たまに反応することがあった。だから、そういうものを買うように勧めると、彼は見事にハマり、誰よりも深くのめり込んだ。
皆に、よく隆太のことわかるね、と言われた。
お決まりの質問も飽きるほど聞いた。”付き合ってるの?”っていうやつ。
違うと思う、と私は答えた。隆太の瞳も、特に反応しなかった。
「いいかもしれない。
ねえ、こっちはどう思う?」
「うーん…そういうウェーブになってるのよりは、ストレートに近い指輪の方が合うんじゃない?」
「そう?」
私がそう言うと、隆太は別の指輪を探し始めた。
最初とは打って変わって乗り気だ。
おそらく、彼の探究心に火がついたのだろう。「これに近いデザインの指輪ないですか?」とか「もうちょっと細めの指輪も見てみたいんですけど」とか、店員さんにあれこれ聞いて、自分から一番合いそうな指輪を探している。
「ねえ、この中だったらどれがいい?」
やがて、隆太はいくつか候補となる指輪を選び出し、どれが似合うか私に聞いてきた。
私はそれぞれの指輪と彼の顔を見比べながら、一番良さそうな指輪を見繕う。
「この『MUSUBI』とかいいんじゃない?試着してみたら?」
「わかった」
ノリノリで『MUSUBI』を試着する隆太。
私はそんな、いつの間にか私よりも楽しそうな彼を見て、なんだか彼の指輪を選びに来たみたいだな、と思う。
でも、それを嬉しいとか楽しいとか思ってしまうのは、やっぱり彼の楽しそうな姿を見ているのが好きだからなんだろうな。
無意識のうちに、つい口元が綻んでしまう。
「うん、似合ってる」
「そうかな」
「合ってますよね?」
「そうですね、こちらの方がお似合いだと思います」
店員さんにも太鼓判を押され、「そうなんだ。俺、こういうのが似合うんだ」と隆太は嬉しそうに言う。
それから、彼はいつもと同じ台詞を、今日も私に向かって言う。
「ほんとに友香は、俺のこと何でもわかってるよね」
彼のお気に入りを見つける度にこう言われ続けてきた。
この一言を聞くために側にいると言っても過言じゃない。
だって、そう言って笑うときの隆太は、無表情じゃなくなるから。
目を細めてにっこり笑ってくれるから。
「そりゃあ、18年も一緒にいるからね」
「でも、良かった。友香が俺の結婚相手になってくれて。
他の人とじゃ、やっていける気がしないから」
大学卒業後はお互いに就職し、初めて離ればなれになった。
隆太がやっていけるか不安ではあったけど、就職先の工場の人々は皆いい人らしく安心した。
私の方も、就職先は小さな病院の受付だったけど、スタッフの人が皆優しくてすぐに馴染むことができた。
そうして互いに落ち着いて、会う回数もずいぶん減った…それから、一年もしないうちに、突然その日はやって来た。
「久しぶり」
「うん」
その日、たまに近況報告でもしようと、隆太と久しぶりに会った。
互いに就職先で上手くやっていけている、という話をしたところで、彼は何気なくこう言った。
「でも、友香がいないのは寂しいな」
「そんなこと言っても、いつまでも一緒にはいられないでしょ。もう学生じゃないんだし」
「え、一緒にいられないの?」
「そりゃあ、カップルでも夫婦でもないわけだし」
「じゃあ、結婚しよう」
「え?」
「俺、ずっと友香といたいから」
「…いや、そんな、勢いでプロポーズされても。
っていうか、本気なの?私のこと好き?」
「好きだよ」
その言葉にはほんのわずかな迷いもなかった。
隆太の真っ黒で大きな瞳が、じっと私を見つめる。
「俺、あんまり自分の好きなものとかわかんないけど。
でも、友香のことは好き。それだけはわかる」
まさか、こんな風に実を結ぶとは思わなかった。
5歳の頃から続く、18年もの片想いが。
「じゃあ、この『MUSUBI』にします」
そして、私達は指輪を選びに来た。
就職したばかりで貯金もないから、エンゲージリングはなしで、マリッジリングだけを買うことにした。
隆太はエンゲージリングも、と言ってくれたものの、それはお金に余裕ができたときでいい。
今はとにかく、何かお揃いのものが欲しかった。
長い時間をかけて紡いできた想いを、証明する何かが欲しい…そう思っていたところだったから、今思えば、まさに私達にぴったりだったのかもしれない。
『紡ぐ想い』というゆびわ言葉を持つ、この『MUSUBI』という名前の指輪は。
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