Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!
「基治(もとはる)さん、あの指輪にしましょう。駅で出会った私達の新たな門出にぴったりだわ」
今から25年前。
結婚するとき、清美(きよみ)は『TRENO ゆびわ言葉 : 出発』という指輪を見てそう言った。
俺はそうだな、と答えかけたが、値段を見て口をつぐんだ。
当時、経済的に余裕のなかった俺には、その婚約指輪と結婚指輪をセットで買うことは難しかった。
俺が黙っていると、彼女は俺の手を取って、
「婚約指輪も、なんて贅沢は言いませんから。結婚指輪、これにしましょう」
そう微笑んで言ったのだった。
「ねえ、結婚25周年なんだし、お父さんもお母さんも、たまには羽を伸ばしてきなよ」
ある日急にそう言い出したのは、高校1年生になる娘の有希(ゆき)だった。
「私達が旅行に行ったら、その間あなたはどうするのよ」
清美が有希に尋ねると、有希は
「えー、いや、その、私だって、一度は友達の家に泊まりに行ったりしてみたいし…」
としどろもどろに返事をした。
その様子を見て、清美は「それが目的なのね」とため息をつく。
いつもの朝の風景に、何も変わらない日常会話。
…のはずだったが、ここから少しだけ風向きが変わり始めた。
「ですって。どうします、お父さん」
「どうするって」
「たまには旅行にでも行きますか?」
まさか清美が行く気になるとは思わず、咄嗟に返事が出てこない。
俺が黙っていると、その隙に有希が「いいじゃんいいじゃん!」と食いついてきて、母娘で話を進めはじめた。
…そして気がつけば、俺と清美は2泊3日で少し遠くにある温泉旅館に泊まりに行くことになっていた。
俺達が初めて出会った駅であり、結婚後、一度も一緒に来たことがなかった駅のホームで、清美と電車を待つ。
「うーん、ちょっと張り切り過ぎちゃったかしら」
清美は2泊とは思えないほど多くの荷物を抱えており、すでに少し疲れている。ふぅ、と息をつき、彼女は荷物を置いてベンチに座った。
無意識なのか、25年前と全く同じベンチに座る彼女の姿に、俺は当時の面影を見る。
「…清美」
思わず声を掛けると、彼女は目を見開いてベンチの前に立つ俺を見上げた。
「びっくりした。名前で呼ばれるなんて、何十年ぶりかしら」
「さあな」
急に気恥ずかしくなり顔を背けると、背けた方から「基治さん」と俺を呼ぶ声がした。
声の先には、25年前と全く同じ笑顔で微笑む清美がいた。
「うふふ、びっくりした?基治さん」
「…うるさい」
きっと俺も、清美のように目を見開いていたのだろう。
お返し成功と言わんばかりにくすくす笑う彼女の顔を再び見られなくなった俺は、荷物から小さな箱を取り出し彼女に押しつけた。
「なに? …!」
すると、笑い声がぴたっと止んだ。
そして少し沈黙した後、彼女は困ったように言った。
「…やだ、こんなおばさんに、今更こんな派手なエンゲージリング似合わないわよ」
そう言って指輪の入った箱を返そうとする彼女に、
「そんなことはない」
と俺は答え、返却を拒否する。
「でも…」
困ったように俺を見上げる清美を無視していると、俺達が乗る予定の電車が間もなく到着するというアナウンスが流れた。
「行くぞ」
「ねえ、基治さん」
「お前には、華やかなリングの方が似合う。だから返すな」
俺はそう言って、電車に乗り込んだ。
「お父さん、結婚25周年で旅行に行くんだから、お母さんに何か買ってあげなよ」
旅行に行く前、有希にそう言われ真っ先に思いついたのは、あの日買えなかったTRENOの婚約指輪だった。
彼女が欲しがっていた、でも俺のために遠慮した指輪を、今度こそ渡したいと思った。
今回もきっと、清美はこんな贅沢品いらないと言って遠慮するだろう。
それでも、あの日出発し、今日まで同じ道を共に歩み、幸せな家庭を築いてくれた礼として、受け取って欲しかった。
「基治さん」
俺が席に座った後、少し遅れて、清美が隣の席に座った。
「私、これまで何にも言わなかったのに。ずっと気にしてくれていたんですね」
清美はそう言いながら、華やかになった薬指を見せる。
思った通り、指輪は彼女にとてもよく似合っていた。
やがてドアが閉まり、電車がゆっくりと動き出す。
「良い旅にしましょうね。今回も、これからも」
清美の言葉に、俺は彼女の手を握ることで応えた。
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