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Ring Story

Brick ゆびわ言葉 ®︎: たゆまぬ努力

2019.09.02

「わ、なにこのリング、面白い…!」

その日、私はあるブライダルリングショップで、他では見たことのない個性的な指輪を見つけた。
結婚式まであと半年。私と夫・祥弥(しょうや)は、準備が忙しくなる前にと早めに結婚指輪を探しに来ていた。

前から気になっていた有名ブランドのショップから見て回って、そのお店は4軒目だった。
でも、そこで見つけた指輪『Brick』は、これまでに見たどの指輪より心惹かれる指輪だった。

歯車のように長方形のパーツが交互に組み合わさっているその指輪は、とにかくシャープでかっこいい。
レンガをモチーフにして作られたそうで、言われてみると確かに、レンガを交互に積み上げたようなデザインになっていた。

「え、めちゃくちゃいい。これにしよう。これがいい!」

祥弥も一目見た瞬間から気に入ったようで、興奮しながらそう言った。
ふたりとも気に入ってるし、これに決めちゃおうかな…そう思いながら、私は『Brick』を試着させてもらい、鏡で確認した。

「…あ…」

でも、鏡を見た瞬間、「これはダメかな」と思ってしまった。
すごく良い指輪なんだけど…普段着けて生活するには、あまりに個性的すぎる気がして。

「やっぱり、やめよう」

そう祥弥に言うと、祥弥は驚いて「え、なんで?」と聞いてきた。

「うーん…ちょっと、個性的すぎるなって。
職場では着けづらいし、ファッションリングみたいに思われたくないし」
「でも、着けちゃダメってことはないんでしょ?」
「そうだけど…やっぱり、シンプルなもの以外は、ちょっと着けづらいよ」
「うーん…。
いや、まあ、日菜子(ひなこ)が嫌ならしょうがないけど」

祥弥はうーん、と唸りつつも、私の意見を尊重してくれた。

彼はたとえ自分が納得できなくても、いつも私の希望を優先してくれる。
一番指輪を気に入ってたのは祥弥だったし、申し訳ないけど、ありがたい。

「ごめんね。もうちょっと、納得できる指輪を探してみよう。
これから、もっといいのが見つかるかもしれないし」

私は祥弥にそう言って、店員さんに他の指輪が見たいと話す。

本当は、私もあの指輪が一番気になっている。
でもやっぱりダメだ。
一生身に着けるなら、誰が見てもわかりやすいシンプルな指輪の方がいい。
きっとその方が、長い目で見て、安心できるから。


それから1ヶ月。
式の準備や仕事の合間に、いろんなお店に行って、いろんな指輪を見た。
個性的なものはやっぱり遠慮しちゃうし、シンプルなものは安心する。
でも、どうしても最終的に「これ!」と思うものを決めきれずにいた。

理由は、自分でもわかってる。
一番心惹かれたリング、『Brick』への思いが捨てきれないからだ。

2つ買うわけにもいかないし、ずっと身に着けるならシンプルな方がいいに決まってる。
だから、シンプルなリングの中で一番良いと思ったものを選んだ。
「これにしよう」と祥弥に伝え、了承も得た。
でも…その先の一歩が、どうしても引っかかる。

「まだ時間はあるし、もう少し考えてみてもいいんじゃない?
一生に一度のものだし、せっかくだから後悔しないようにいっぱい悩んだ方がいいよ」
「…うん。ありがとう」

祥弥の言葉に助けられ、私は選択を一旦保留にし、他の準備を進めていった。


更に1ヶ月が経ち、いよいよ決めないと後が大変になるタイミングまで来てしまった。
私は改めて、『Brick』とシンプルなリングの魅力をそれぞれ考える。

『Brick』の魅力は、何と言ってもデザインだ。
誰とも被らないデザインはかっこいいし、魅力的だし、着けていると毎日頑張れそうな気がする。
でも、職場には着けて行きづらいし、結婚指輪だと思われない可能性がある。

対して、シンプルなリングは、安心する。
誰が見ても結婚指輪だとわかるし。
それに、あとは…。

……。

…あれ?
シンプルなリングに、私、全然魅力を感じてない。
ただ、皆にも認めてもらえるし、勘違いされないから安心するってだけで…。

…安心って、そんなに大事だったっけ?

よくわからなくなって、祥弥に聞いてみた。
すると、こんな答えが返ってきた。

「実は俺、あんまりよくわかんないんだよね。皆に認められると安心、みたいなやつ。
俺は自分自身が認めたもので、日菜子も認めてくれるものだったら、それでいいからさ」

彼の答えを聞いて気がついた。
大事なのは、自分と相手が、それを好きかどうかだって。
安心は確かに大事だけど…他人からの評価で選ぶよりも、自分たちが好きなものを選ぶ方が、本当はずっと安心するんじゃないかって。

「…やっぱり、『Brick』にしようかな」

私がそう言うと、祥弥は笑って「うん。いいと思う」と言った。

「大丈夫。これだけ時間をかけて悩んで選んだんだから、きっと後悔しないと思う」


4ヶ月後。
結婚式で初めてお披露目をした『Brick』を見た友人や家族は、皆口々に「珍しい指輪だね」と言った。
でも、それからすぐに、「いいんじゃない? 個性的で」と言ってくれた。

「ね、大丈夫だったでしょ」
「うん。…ありがとう。見守っててくれて」

私は感謝の気持ちを込めて、祥弥に抱きつく。
指輪も、式も…いっぱい悩んだおかげで、これまで以上に彼への想いが深く積み重なったような気がする。

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