Ring Story「ゆびわ言葉®」で繋がる愛の物語をAFFLUX(アフラックス)でチェック!
「転勤なんか、する予定じゃなかったのにな」
俺はスーツケースの車輪をゴロゴロと鳴らしながら長い空港のロビーを歩き、呟く。
来る途中に見た空は快晴だった。
きっとこの空も俺を祝福してくれているのだろう…と言いたいところだけれど、俺はまだ、いまいちこの状況に納得できていない。
「どうして転勤になったのかなー」
「それは、翔太(しょうた)が仕事を頑張ったからでしょ」
思わずもう一度呟くと、堪りかねたように隣からツッコミが入る。
「出世コースに乗ったんだから、もっと喜びなよ」
隣を歩く紗英子(さえこ)は、空港にいるのにハンドバッグ一つしか持っていない。
大きめのスーツケースにビジネスバッグという重装備の俺とはえらい違いだ。
…まあ、紗英子が飛行機に乗るわけじゃないから、別にいいんだけどさ。
「うーん、別に、頑張りたかったわけじゃないんだよ。
出世とかもどうでもよかったし」
こんなこと言うと職場の同僚たちに怒られそうだけど、一人を除いて今は誰もいないのをいいことに、俺は仕事を頑張ってきた本当の理由を話す。
「でも、頑張らなきゃ紗英子と付き合えなかったから。『仕事もきっちりできない奴とは付き合えない』って、あの日紗英子が俺を振ったから。
波風立てず、適当に生きてればいいやって思ってたのに、紗英子がもっと頑張れって、俺の背中を押すから…」
「…押すから?」
「本気出して頑張ったら、羽が生えちゃった」
紗英子に見せつけるように、俺は空いている左手で羽を広げるようなポーズを取る。
しかし俺を見る紗英子の目は、キンキンに冷えたビールよりも冷たかった。
「羽生えてるなら、飛行機になんか乗らないで自力で飛んだら?」
「紗英子、冷たい」
「くだらないこと言うからでしょ」
そう言いつつも、紗英子の口元は笑っている。
いつもクールでカッコイイ紗英子が、不意に頬を緩める瞬間が好きだ。
紗英子が笑っていると、俺まで嬉しくなる。
だからこうして、時々体を張ってしまう。
仕事の時も、今も。
「でも、良かったよ。紗英子のおかげで、頑張ろうって思えたから」
女性も増えてきたとはいえ、銀行の総合職はまだまだ男の方が多い。
そんな中、女性総合職として同じ職場に就職した紗英子は、男に負けじと必死に仕事をし、何人もの男を抜き去った。
今や毎月売上ランキング1、2を争う彼女だが、そのポジションまで上りつめることができたのは、彼女が女性だからでも、天才だからでもない。
彼女はただ、誰よりも真面目に努力をし続けて、そのポジションを勝ち取ったのだ。
そんな紗英子のことを、俺は心から尊敬している。
だからこそ彼女に惹かれたし、彼女に見合う存在になれるよう頑張った。
俺が仕事で成果を出し、出し過ぎたせいで本部に出張になったのは、間違いなく紗英子のせいであり、紗英子のおかげだ。
…そんな回想をしているうちに、気づけば保安検査場の前まで来てしまっていた。
見送りができるのはここまでだ。
俺は改めて、ここまで見送りに来てくれた紗英子に別れの挨拶をする。
「じゃあ、行ってくる」
「向こうでもきっちりやんなさいよ。じゃないと私が追い抜くから」
「わかってるって。紗英子も、次の支店でも頑張って」
「もちろん」
同時に入社し同時に成果をあげた紗英子と俺は、同時に転勤が決まった。
俺と違い、紗英子は隣の市に行くだけだから飛行機を使うことはないけど、環境が変わるのは同じだ。
お互いに転勤先でも頑張れるように、俺たちは拳と拳を合わせる。
寂しいけれど、一旦お別れだ。
そう思い別れようとしたところで、俺は「あ」と声を出した。
そうだ、最後に大事な儀式をしなければいけないんだった。
「どうしたの?」
「手、出して」
「何で?」
「いいから」
紗英子に両手を出させた俺は、ポケットから指輪を出して紗英子の左手薬指につけた。
うん、サイズも完璧だ。頑張って調査して良かった。
「…これ」
「俺がいない間、他の男に言い寄られないためのお守り。つけてて」
「翔太」
「戻ってきたら、結婚しよう」
俺がそう言うと、いつもクールな紗英子が、明らかに動揺した。
目を見開き、俺を見て…それから、薬指についた、はばたく翼のような形をした「Wing」の指輪を見る。
25年生きてきて、一番長い10秒だった。
沈黙の後、彼女はゆっくり、うん、と頷く。
ああ、良かった。
一番長い10秒の後に続くのは、一番嬉しい答えだった。
「じゃ、ちょっと飛んでくる!」
これ以上ここにいると離れられなくなりそうだから、俺は紗英子にそう言い残し、再び羽を広げるポーズで保安検査場に向かう。
指輪みたいに、羽が生えてるように見えるかな?
見えるといいな。はばたいた先に、俺たちの未来が。
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