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Ring Story

Little Honey ゆびわ言葉 ®: 可愛いあなた

2019.05.31

6歳年下の健太からの熱いプロポーズを受けた私は、彼から『Honey』という婚約指輪をもらった。
そしてその後、結婚指輪も同じシリーズの指輪で揃えた。
『Honey』よりも線が細くて着けやすい、『Little Honey』という指輪に。

1年後には式も挙げて、国内だけどちょっとした新婚旅行にも行った。
結婚したら男は変わる…そんな話も聞くし、少し怖かったけど、健太は結婚後も相変わらず優しかった。
休日はいつも私のやりたいことを優先してくれるし、出張で遠くに行った時は必ず夜に電話をくれる。そしてお土産に必ず、私が好きそうなスイーツを買ってきてくれる。

優しくて、幸せで…でも4年経った今、優しいだけの毎日になんとなく寂しさを感じるようになってきた。

『真由、可愛い』
『真由は俺にとってお姫様だから』

新婚の頃によく言われていたような、甘い言葉が欲しいわけじゃない。
あの時ですら30歳だ。34歳なんてもう、お姫様とか言われていいような年齢じゃないし…。

でも、なんだろう、夫婦としてもっとラブラブではいたいような。
『Honey』や『Little Honey』のゆびわ言葉みたいな、『可愛いあなた』ではいたいような…。

うーん、難しい。
大人として、妻としての『可愛い』って、なんだろう?


「ただいまー」

答えが出ないままモヤモヤしていたある日、健太が夜遅くに帰ってきた。

結婚してから役職が上がり、健太は一気に忙しくなった。
夫の頑張りが認められ、多くの仕事を任される立場になったというのは妻としてはすごく嬉しい。
でも、遅くまで帰ってこない日が増えたのは、心配でもある。

「おかえり」

だから、夜10時だろうと11時だろうと、いつもリビングで帰りを待っている。

「待ってなくて良かったのに」
「私が待っていたかったんだからいいの。ビール飲む?」
「うん」
「じゃあ、何かおつまみ作るね」

疲れて帰ってきた健太のために、私はキッチンに向かい簡単なおつまみを作る。
今日はキャベツとツナに、ゴマ油とポン酢を混ぜたサラダを作った。

「結局何か作ってもらうんじゃ、外で食べてきた意味なかったなあ。
真由がゴハン作らなくてもいいようにしたかったんだけど…」

食卓で待つ健太が、そんな嬉しいことを言ってくれる。
私は「たいしたもの作ってないから、気にしないで」と答えながら、作ったサラダとビールを食卓に並べた。

「そうだ、コンビニでひよこ買ってきた」
「ひよこ?」
「うん、すごく可愛いなーと思って買ってきちゃった」

そう言って健太がコンビニの袋から取り出したのは、ひよこの形をしたプリン。
なるほど、確かに可愛い…。

「…『可愛い』?」

ずっとモヤモヤしていた『可愛い』という単語が突然登場し、私は思わずそう声に出す。

「どしたの? 可愛くない?」
「いや、確かにひよこは可愛い、けど…」

自分が最近全然言われてない「可愛い」をあっさりもらうひよこプリンに、ほんの少しだけ嫉妬してしまう。
いや、欲しいのはこういう「可愛い」じゃないんだけど。うーん…。

「真由?」
「…なんでもない」

やっぱりよくわからない。
何がこんなにモヤモヤするんだろう。


夜、ベッドで横になっていると、健太が手を握ってきた。

「…ね、真由、何かあった?」
「…なんで?」
「様子が変だったから。ひよこプリン、だめだった?」
「…ひよこが悪いわけじゃないんだけど…」

どう切り出そうか迷ったけど、良い言葉が思いつかなかったので、私はストレートに尋ねてみる。

「ねえ、最近、私に『可愛い』って言わなくなったよね」
「そう?
…あー、そういえば言ってないかも」
「いや、言って欲しいわけじゃないんだけど、なんでかなあって思って。
…いつも一緒にいるから、もう、可愛く感じなくなったとか?」
「うーん…」

健太はしばらく悩んだ後、「なんていうか…可愛いって感じじゃないんだよなぁ、今は」と言った。

「え」

やっぱり今は可愛くないんだ…。
わかってはいたけど、いざ正面から言われるとショックだった。

私が落ち込んでいると、健太が慌てて「あ、違う! そういう意味じゃなくて!」と叫んだ。

「いや、真由はずっと可愛いし、可愛くないって意味じゃなくて…なんだろう、上手く言えないんだけど」

健太は悩みながら言葉を続ける。

「昔は、見た目とか仕草とか、優しいところとか…そういうのを可愛いって思ってた気がするんだけど。
今はもっと、すごく身近なところが、可愛くて、好きで」
「え…」
「例えば、遅くまで待っててくれるところとか、おつまみ作ってくれるところとか、最近外で食べることが多くて太ってきてるからって、糖質ゼロのビールを用意してくれてることとか。
そういう一つ一つのことが、可愛いっていうか、愛おしいって、思える」
「愛おしい…」

私が思わず反復すると、健太は自分の言葉に納得したようで、「そうだ、それだ!」と言う。

「それだ。愛おしいって感じ。可愛いじゃ足りないし伝えきれない。
家族として、奥さんとして…愛おしい、可愛い真由を守りたい。今はそんな感じ」
「…!」

そうはっきりと言われて、私も気がついた。
健太への想いが、結婚した当初とはずいぶん違っていることに。

あの頃は、年下なのに熱くアプローチしてくれるところが好きだった。素直で真面目で、甘い言葉をくれる彼と、一緒にいたいと思った。
でも、今は…性格や言葉じゃなくて、毎日の生活、行動の中で感じる優しさが好きだ。
私のために外でご飯を食べてきてくれるところ、和ませるためにひよこプリンを買ってきてくれるところ、私が悩んでいると、そっと手を握ってくれるところ。

そこまで考えて、ようやく気づいた。
この日々は、”優しいだけ”なんかじゃなかったって。
言葉じゃなくても、違う形で…毎日たくさん、甘すぎるくらいの深い愛をもらっていたんだって。

「…ありがとう、健太」

大人として、妻として私を『可愛い』と思ってくれて。

そんな想いを込めて健太の手を少し強く握ると、健太は私をじっと見つめて、あの時と全く同じ台詞を言った。

「真由、愛してる」

婚約指輪を通してくれた時と同じ言葉なのに、今聞くと全然違う。
あの頃は、ただドキドキしていただけだったけど…今はドキドキを超えて、安心する。

「…うん。私も」

ああ、この人と一緒にいられて、本当に幸せだ。

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