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Ring Story

laurel ゆびわ言葉®:きみを讃える

2018.01.08

「美希!」

夜11時、同棲中の彼氏である翔真(しょうま)は、家に帰ってくるなり私を呼び、こう言った。

「俺…ついに、スタイリストデビューできることになった!」
「本当!?」
「おう。来週からお客さん担当させてくれるって」
「そっか…良かった。おめでとう、翔真」
「へへへ」

もう24歳なのに、翔真は照れながら子供のように笑う。
彼のそんなところが可愛いし、愛しいと思う。

「翔真、ご飯できてるから食べよう。今日は大したものじゃないけど、明日はお祝いに翔真の好きなもの作るから」
「あ、待って。その前に渡したいものがあるんだ。手、出して」

何だろう?
翔真の言葉に私が左手を出すと、ぽん、と小さな箱が乗せられた。

「え、これってもしかして」
「開けてみて」
「…うん」

ふたを開けると、中にはツタのような模様のある、オシャレなゴールドの指輪が入っていた。
真ん中にはしっかり、ダイヤモンドがはまっている。

「laurelっていう、きみを讃えるっていう意味がある指輪。美希を讃えたいから、買ってきた」
「なんで? デビューテストに合格したのは翔真なのに」
「だって、美希だって忙しいはずなのに、ずっと俺のこと支えてくれたでしょ。アドバイスくれたり、帰ったらご飯用意してくれてたり。
俺が合格できたのは美希のおかげだから、俺より美希を讃えたい」
「そんなこと…」

そんなことない。美容師として同じサロンに就職してから、アシスタント時代、誰より頑張っていたのは翔真だった。
両親が美容師で人より多く経験を積んでいた私とは違い、彼はゼロからのスタート。
それなのに、同期の誰よりも努力して、私のスタイリストデビューからたった3か月で同じところまでたどり着いた。
今日だって、開店の2時間前から閉店の3時間後までずっと練習して、テストを受けて、それでやっとここにいる。
私のおかげじゃない。翔真が頑張ったからだ。

…と、言いたいことは山ほどあったのに。

「それに、俺、美希と結婚したかったから」

彼のたった一言で、言うつもりだった言葉が全て吹っ飛んで行ってしまった。

「讃えたかったのもあるし、結婚したかったから。
デビューできれば一人前だし、美希の両親にも認めてもらえるって思ったから。
…だから、合格したら絶対これ渡して、美希にプロポーズしようって思ってた」
「翔真…」
「受け取ってくれますか」
「…うん」

指輪を取り出し、翔真に渡す。
彼は今までに見たことのない優しく大人びた表情で、私の薬指に指輪を通した。

「美希のこと、本当に尊敬してる。
両親が美容師とか関係なく、一人の美容師として、人の何倍も努力するところ。仕事でもそれ以外でも、見えないところでめちゃくちゃ頑張って、皆を支えて励ましてくれるところ。それから…」
「私だって尊敬してるよ」

嬉しいけど少し恥ずかしくなって、私は彼の言葉を遮る。

「正直、最初はただのチャラい奴だって思ってた。でも、仕事に対しては誰より真剣で、いつも真っ直ぐ目標を見据えてて。
それから…忙しいのに私との将来のことまでしっかり考えてくれてて、そのために頑張ってくれてたことも。
すごいなって思うし、嬉しい」
「…美希」
「ねえ、やっぱり私だけもらっちゃ悪いよ。私も翔真のこと讃えたいのに」
「え、受け取ってくれないの?」
「そうじゃないけど」
「うーん」

翔真は一瞬悩んだ後、何かを思いついたように「あ!」と言った。

「じゃあ、俺にもちょうだい、指輪」
「え?」
「これのマリッジリング、二人で買おうよ。そんでお互いを讃え合うの」

どう?と言って彼は無邪気に笑った。

じゃあ、そうしよっか。
子供だけど大人な彼の提案に、私も笑ってそう返事した。

laurel ゆびわ言葉 ®:きみを讃える

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