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Ring Story

chanson d’amour ゆびわ言葉®:ラブソングを君に

2017.10.22

「ねえねえ相太、見てこれ! 素敵じゃない?」

見渡す限り眩しく、これだけ集めたら一体いくらかかるんだろうと一瞬考えたが、それを考えることすら放棄したくなるほどの宝石、指輪の数々。
自分には遠い世界のものと判断し、ただぼーっとショーケースの中を眺めていると、薬指に派手なリングをつけた亜衣が俺に声をかけてきた。

「え、うーん…そうかなぁ…」
「素敵だよ! 華やかだし、こんなのつけて歩いてたら皆私に釘付けになっちゃうかも!」

彼女は指輪を試着したままくるくるとその場で回転し、「ふつうのゴールドもいいけどピンクゴールドも気になるなー」と呟きながら店員さんと何やら話している。
俺はもっとシンプルなプラチナのリングの方が可愛いんじゃないかと思うんだけど、どうも彼女は目立つリングの方が好きらしい。

「chanson d’amour ゆびわ言葉: ラブソングを君に…か」

ゆびわ言葉はいいけど、何で大きなダイヤを小さなダイヤが囲むようなデザインになっているんだろう。四角い形なのも珍しいよな…。

「これね、虫かごをイメージしてるんだって」
「…え?」
「虫たちの求愛のラブソングをイメージした指輪で、エンゲージリングは虫かご、マリッジリングは虫たちの歌声。つまり、二つの指輪を組み合わせると、大好きな歌声をかごの中に閉じ込めるって意味になるんだって! 素敵だよね…!」

…え、素敵か、それ?
虫の求愛の歌声って…。

「決めた、これにしよ! 店員さーん!」
「おいちょっと待て、下見するだけって言っただろ!」

俺は慌てて亜衣を止め、店から連れ出した。

10分ほど歩き、少し落ち着いたところで、俺は亜衣に意思を確認する。

「本当にあの指輪にするの?」
「うん。相太は嫌?」
「いや、別に婚約指輪の方は俺がつけるわけでもないし、嫌じゃないけど…」

…違う。問題は、そっちじゃないんだ。

「…亜衣。本当に、俺と結婚するの?」
「…嫌?」

少し間を空けて、同じ言葉を返される。
いつも勝手に突き進んでいく彼女が、今だけは不安そうに俺を見上げる。
そんな顔で言われると…俺も同じ言葉を返すしかなくなってしまう。

「…嫌じゃないけど。でも、本当に俺でいいの?
根暗だし、イケメンでもないし、趣味が合うわけでもないし…」

我ながら残念な男だと思いつつ、自分の気持ちを正直に話す。

「そりゃあ、亜衣と一緒にいると楽しいし、一人で行ってたカラオケだって今は二人の方が楽しいけど。亜衣が俺の歌声に惚れたっていうから、無駄にたくさん練習して披露したりしてさ。
これまで何でも面倒で、目立つ場所も人混みも大嫌いだったのに、亜衣と並ぶ行列は楽しくて。俺の平凡な毎日は、亜衣のせいでめちゃくちゃになって…めちゃくちゃ楽しくなって…。だから…」

だから、ずっと亜衣と一緒にいられるなら、俺は嬉しいけど。
というところまで口走って、はっと顔を上げた。

「ふふ、うふふふふ」

見ると、亜衣はこれ以上ないくらい口角を上げて笑っていた。
…何だこれ。めちゃくちゃ恥ずかしい。

「あーもう! やっぱりさっきの指輪、買いに行こう!」

恥ずかしさのあまり俺はやけくそになってそう言い、彼女に背を向けて歩き出す。後ろからまだ彼女の笑い声が聞こえるけど、無視だ無視。

やがてさっきのジュエリーショップに着き、俺が逃げるように中に飛び込んだ時、彼女は笑うのをやめ、ぽつりと一言呟いた。

「…やっぱり私、あの日あなたの歌声に惹かれて良かった」

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