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Ring Story

bouquet ゆびわ言葉®: 贈りもの

2018.03.05

「ただいまー」
「おかえり」

玄関に入り「ただいま」と言うと、奥の方から私を迎える「おかえり」の声が返ってきた。
ドアを開けると、ソファーでテレビを観ていた淳也(じゅんや)が私の方を向き、「ご飯食べてきた?」と聞いてくる。

「まだ。淳也は?」
「もう食べた。チャーハンで良ければ作る?」
「うん。ありがとう」

彼と簡単な会話を交わし、私は着替えのために自分の部屋に移動する。
鞄を置き、スーツを脱いでぱぱっと部屋着に着替えたら、リビングに戻る。
リビングに戻りテーブルの前に座ると、奥にあるキッチンの方から玉ねぎを炒める良い匂いが漂ってきて…こういうとき、私は彼の存在をありがたいと思う。

同棲を始めて1年。
私がご飯を用意していなくても、淳也は文句を言わない。
それどころか、今日みたいに残業で帰りが遅くなった日は、私の分のご飯まで作ってくれる。
口下手だけど優しいし、浮気も束縛もしないし、趣味や男友達を優先して私をないがしろにすることもない。
本当に、淳也は…幼稚園の頃からずっと一緒だった私の幼なじみは、これまで私が付き合ってきた人たちとは全然違う。
決して刺激的ではないけど、一緒にいて、すごく心地よくて、自然で、楽だ。

…楽すぎて、恋人らしいドキドキ感が全くないことが、ちょっとだけ不満ではあるけど。

「…あれ?」

そんなことを考えながらチャーハンを待っていると、テーブルの端に、見慣れないブーケが置かれていることに気がついた。
真っ白な、バラみたいな花のブーケだ。すごく綺麗だけど、一体何でこんなところに飾ってあるんだろう?
気になって、私は淳也に尋ねてみる。

「このブーケ、どうしたの?」
「買ってきた」
「なんで?」
「…」

淳也は質問には答えず、代わりに完成したチャーハンをテーブルに置いてソファーに戻った。どうやら答えたくないらしい。
幼なじみとはいえ、こういうときに淳也が何を考えているのか、未だによくわからない。
でも、怒っているわけではないのはわかっているし、何よりお腹が空いたので、私は今はそれ以上追求せずにチャーハンを食べることにした。

「いただきます」

淳也は黙ったままだった。


チャーハンを食べ終えた私が食器を片付けようと立ち上がると、淳也が突然「それ、いる?」と聞いてきた。

「え?」
「その花」

食べている間にブーケのことをすっかり忘れてしまっていた私は、何のことか少し悩んだ後、あ、さっきのブーケの話か、と気づく。

「もしかして、私のために買ってきてくれたの?」
「…うん、まあ」

冗談のつもりで聞いてみたら、なんと淳也は肯定した。
思わぬプレゼントに私は驚き、白いブーケをまじまじと見る。

ふんわりした花弁が何層にも重なっているその花は、綺麗で華があって、まるで結婚式のブーケみたいだった。
こんなにロマンチックなものをくれるなんて、珍しいこともあるものだなー、と私が隅々まで観察していると…。

「…あれ?」

ブーケの隅に、小さなメッセージカードが入っていることに気づいた。
開いてみると、『Will you marry me?』と書かれている。

結婚式みたいなブーケに、『結婚してくれますか?』というメッセージカード。
…あれ?

「もしかして、これって」

プロポーズ?
いや、まさか淳也に限って…こんなロマンチックなプロポーズを、今更私にするわけないし。
でも、淳也はこんな冗談を言ったりやったりする人じゃないし…。

よくわからない。
よくわからないけど…なんか、ドキドキしてきた。

「…そっちが嫌なら、こっちもあるけど」
「え?」

振り返ると、ソファーにいたはずの淳也が、いつのまにか右手に箱を持って私の後ろに立っていた。
箱の中には、まるでダイヤモンドでできたブーケみたいな、美しい指輪が入っていた。

「いっつも俺と一緒じゃドキドキしないっていうから、せめてプロポーズくらいは、ドキドキさせられたらって思って」
「…ドキドキ、した」
「本当?」
「うん」
「…じゃあ、結婚してくれる?」
「…うん」

私が頷くと、淳也は良かった、とほっとした顔で笑った。
そんな淳也を見て、私は思う。
もしかして、淳也は…口に出さないだけで、これまでずっと、今みたいに私のために色々考えて行動してくれていたんじゃないかって。

…もし、そうなのだとしたら。
今、楽に幸せに過ごせているこの日々は、間違いなく彼からの贈り物だ。

「淳也」
「ん?」
「…プレゼント、ありがとう」

指輪やブーケだけじゃなくて、これまでずっと、ありがとう。
彼がくれたたくさんの日々のことを思い出しながら、私は心からの想いを、彼と交わす一言に込める。

bouquet ゆびわ言葉 ®: 贈りもの

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