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農家さんが経営する、パンと野菜が美味しいレストランがあると友達に聞いたのは、23歳の秋のことだった。
一時間ほど車を走らせて辿りついたのは、山奥にある小さなお店。
素朴だけど良い雰囲気で、私はすぐに気に入った。
注文したメニューは、自家製パンとトマトのミネストローネ。
パンの香ばしさとトマトのみずみずしさが感じられて、その美味しさにすごく感動した。
「いかがですか?」とシェフの男性が聞きにきたので、私は思わず「すごく美味しいです!」と興奮気味に言ってしまい、その勢いで椅子を倒してしまった。
シェフの男性は苦笑いしながら「良かったです」と言い、倒れた椅子を元に戻してくれた。
少し年上だけどまだ若い、30歳くらいの人だった。
後から知ったんだけど、何と彼が経営者の農家さんだったらしい。
てっきり息子さんかスタッフさんかと思っていたので、びっくりした。
私より少し上くらいの年齢なのに、畑の世話もして、レストランで調理も接客もしているなんて、すごいなあ…と思った。
すごく美味しかったし、また近いうちに来よう。
そう思っていたものの、その後仕事が忙しくなり、なかなかレストランに行けず…ついに季節は冬になってしまった。
冬になると、仕事だけでなく、プライベートも大変になった。
同棲していた恋人と上手くいかなくなった。
会社の上司だった彼は、これも仕事の付き合いだからと言って毎晩飲みに行き、深夜に帰ってきていた。
家事は全部私に任せっぱなしで、でも、いくら話し合おうとしても私の意見を聞いてくれることはなくて…。
気持ちだけが毎日少しずつすり減っていった。
24歳の誕生日が迫った春、そんな状況に耐えられなくなって、現実逃避をするように農家さんのレストランに足を運んだ。
具材が春野菜に変わっていたミネストローネは相変わらず美味しくて、思わず少し泣いてしまった。
心配してくれた農家さんに「最近いっぱいいっぱいで料理が作れなくなっていたから、なんだか美味しくて、感動してしまって」と話したら、簡単に作れるミネストローネのレシピを教えてくれた。
家に帰って作ってみて、美味しくてもう一度泣いてしまった。
一週間後、私は思い切って別れ話を切り出し、同棲していた恋人と別れた。
そしてその次の日、24歳になった私はもう一度農家さんのレストランに足を運び、お礼を言った。
「ここで料理を食べて元気が出たおかげで、付き合っていた人と別れることができました。ありがとうございました」
農家さんは少し驚いた表情をした後、「何か力になれたなら良かったです」と言ってくれた。
その日は他にお客さんがいなかったから、そのまま少し雑談をした。
実家の麦畑を継ぎつつ、合間にトマトなど他の作物の栽培や、レストランなど色々チャレンジしてみていること。
それから、昭宏という名前もそのときに初めて聞いた。
彼の話を聞いて畑や農業に興味を持った私は、その後々彼の畑に行き、作業を手伝うようになった。
それからの時間は、ゆっくり優しく流れた。
畑で自然に触れながら生活をするうちに、辛かった記憶が少しずつ薄れ、消えていった。
初夏、収穫した麦を手作業で脱穀した。
「普段は機械でやるんだけど、一度は自分の手でやってみて欲しいから」と昭宏は言って、やり方を丁寧に教えてくれた。
「へー、こうやってやるんだ…!」
少しずつ麦の実が選別されていく過程が面白くて、夢中になって眺めていると、ふと昭宏の手が止まった。
どうしたんだろう、と思い彼の顔を見ると、彼はじっと真剣な目で私を見つめていた。
「…ど、どうしたの?」
「…え。あ、いや、何でもない」
私が声をかけると、昭宏は我に返ったのか、作業を再開した。
でも、その真剣な目を私は忘れることができなくて…それ以降、隣で作業をする度に思い出すようになってしまった。
前の恋人のこともあり、芽生えてしまった恋心に最初は悩んだ。
でも、気持ちは隠せなかった。
一週間ほど経った頃、様子がおかしい理由を昭宏に尋ねられ、私は正直に話した。
一緒にいると意識してしまうこと。
昭宏のことが好きなのかもしれないけど、前の恋人と別れて間も経っていないのに生まれてしまった気持ちに、自分でも戸惑っていること。
すると、実は、と昭宏も自分の気持ちを告白した。
実は、最初に出会ったときから私のことが好きだったということを。
「付き合っていた人と別れたばかりだったし、負担をかけたくなかったから、言えなかった。
これからも、菜穂が望むなら今のままでいい。
でも、もしも、菜穂が付き合いたいって思ってくれるなら…」
昭宏の言葉を最後まで待たずに、私は彼の胸に飛び込んだ。
これまでなんて関係ない、こんなに私のことを想ってくれる彼と一緒にいたい。
昭宏の優しさに、素直にそう思えたから。
そして、季節が一周回って、秋。
収穫したばかりのトマトで、昭宏がミネストローネを作ってくれた。
「美味しい…!」
最初に食べたときも美味しかったけど、自分で収穫を手伝ったトマトのミネストローネは、更に美味しかった。
「良かった」
昭宏はそう言って、そっとテーブルの上に、小さな箱を置いた。
「開けてみて」
「…これって」
ドラマで見たことのある箱を恐る恐る開けてみると、中には、ダイヤモンドが大きく輝く、綺麗な装飾の指輪が入っていた。
「『Harvest』っていう名前の指輪なんだ。菜穂にあげるなら、これしかないと思って。
菜穂は、麦みたいな人だから」
「麦?」
「そう、麦」
昭宏はそう言うと、キッチンから焼いたばかりのパンを一枚持ってきて、ミネストローネの横にあった皿の上に乗せた。
「麦は秋に種を蒔いて、冬を耐えて、春に成長しはじめるんだ。
秋にこの店に気付いてくれて、辛い冬を耐えて、春に新しい道を選び始めた、菜穂と同じように」
「昭宏…」
それをずっと見守ってくれたのは、昭宏だ、と私は思う。
昭宏とこのお店が、ずっと私を見守り、育ててくれたんだ。
「農業って大変なのに、ずっと付き合ってくれてありがとう。
俺で良ければ、これからも一緒にいてくれますか」
「…はい!」
秋に結ばれた私達は、その数日後に、新しい麦の種を蒔いた。
新しい、幸せの種を蒔いた。
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