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Ring Story

Que SeraSera ゆびわ言葉®: なるようになる

2017.09.03

渡辺里恵、今日で31歳。
下町生まれ下町育ち、小さい頃から兄弟の面倒ばかり見てきた私の今の職業は、看護師。女性の憧れの職業のひとつでもある「白衣の天使」の一人として、お医者様や患者さんを優しく温かく支えたい…そう思っていたはずなのに。

度重なる激務で、気づけば肌はボロボロ、ストレスでドカ食い、そして薄給…。
お見合いや合コンなんて行く機会もないまま、気づけばお世辞にも美人とは言えない30代独身女が一人、出来上がってしまった。

そんな貰い手のいるはずのない私には…今何故か、私とは正反対の性格の、関西人の彼氏がいる。

「誕生日おめでとう、里恵」
「おめでとー!」

玄関に一歩足を踏み入れた瞬間、クラッカーがパーン!と鳴り、ふたつの声が私を出迎えた。
私の足にくっついてくるのは、5歳になる彼の息子、尊(たける)。彼氏の丈治は、車椅子の上から私達の様子をニコニコと眺めている。

「ありがとう…もう31だし、あんまりめでたくはないけどね」
「まーたそんなネガティブな事いうて。年なんか関係ないやろ」

素直に喜べない私を丈治は笑い飛ばして、コップにビールを注ぎ始めた。

「丈治は離婚して骨折もして、大変なことばかりなのに、よくポジティブでいられるよね…」

私は彼の楽天的な性格を、心底羨ましく思う。

丈治は結婚した女性の都合で仕事を辞めて大阪から上京し、その女性の都合で離婚し、息子を任された。
私だったらそれだけでも相手を呪いたくなるのに、今度は息子を育てる傍ら働く現場で事故が起きて、足を骨折した。
私だったら絶対立ち直れないような状況の中、彼は、辛いとか苦しいとか一言も言わずにリハビリを続け、退院。
私が病室を訪れる度、彼はいつも「俺は元気やで」と笑っていた。

「何でもケセラセラいうオカンに育てられたからなー」

彼はけらけらと笑って、ビールをぐいっと一息で飲み干した。

「じゃあ、私の将来も何とかなるかなあ」

ポジティブな彼につられて適当に呟くと、尊が私を見上げ、とんでもない事を言い出した。

「そんなん、うちのオトンと結婚したら解決やん!」

突然の言葉に私は咽せて、丈治は手をテーブルにぶつけた。
衝撃でこぼれたビールを慌てて拭こうとすると、丈治に腕を掴まれる。

「里恵…えっと…俺は、嫌か?」
「えっ」

突然すぎて一瞬パニックになったけど、慌てて首を横に振る。

「えっと…私の方こそ、こんな私で、いいの?」
「俺は里恵がええんや。入院してたとき、毎日病室に来て、尊と遊んでくれて、俺のこといっぱい元気づけてくれたやろ。里恵は俺の天使や」

丈治は間髪入れずに恥ずかしくなるような返事をして、それからすぐに、「やっぱこういうのは指輪とかないとな」と言って指輪を探し始めた。

…その後、私と彼は、「Que SeraSera ゆびわ言葉:なるようになる」…という、あまりにも私達らしい指輪を見つけ、もう一度驚いてテーブルの上のお皿をひっくり返すことになった。

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