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Ring Story

mist ゆびわ言葉 ®: うるおい

2019.01.30

「うーん…」

6連勤を終え、久々に訪れた休日。
部屋で目を覚ました私は、なんだかやけに部屋が明るい気がすると思ったものの、眠気に勝てずもう一度目を閉じる。

「…あれ? 今、何時…?」

そう思ったのはそれから10分後。
慌てて飛び起き時計を見ると、時刻は既に13時を過ぎていた。

「やば、行かなきゃ…!」

今日は婚約者である直哉と指輪を見に行く約束をしていた日だ。
待ち合わせは10時半。既に2時間半も過ぎてしまっている。
急いで準備しなきゃ…!ああ、それから、今から行くって連絡もして…。
そんなことを考えながらベッドから降り、着替えを探していると、急に目の前に大きな人影が現れた。

「何してんの」
「…へ?」

目の前に立っていたのは、細身で長身の婚約者、直哉。
待ち合わせのはずなのに、どうして私の家にいるんだろう?

「あまりに遅いし既読もつかないし電話にも出ないから、様子見に来た」

直哉は私の心の声に答えるようにそう言って、部屋の合鍵をくるくると回す。

「そっか…」
「ていうか、熱あるなら最初から今日やめとけば良かったじゃん」
「え? 熱?」
「…もしかして、気付いてないとか?」
「…?」

もしかして、私、熱あるの?
よくわからないままとりあえず体温を測ってみたら、37度5分もあった。

「最近調子悪いな、とか思わなかったの?」
「うーん、確かにここ数日、ちょっと体だるかったかも…」
「…。とりあえず、今日は休んで、明日も下がらないようだったら病院行きな」
「…うん」

うー、でも、滅多に合わない休みがやっと合ったんだから、指輪選びに行きたかったなあ。
ほぼカレンダー通り休みが来る彼と、土日の方が忙しい接客業の私はなかなか休みが合わない。
プロポーズを受けてから一ヶ月、やっと婚約指輪を選びに行けるチャンスが来たのに、よりにもよってこのタイミングで熱を出すなんて…。

「はぁ…」

落ち込む私を、直哉は容赦なくベッドに連れ戻す。
そして一つため息をついて、そっとスマホを差し出した。

「ったく、落ち込むな。これで選べばいいだろ」
「え」
「店に行くのは今度にして、今日はこれで一緒に探そう」
「…! うん!」

そっか、お店に行かなくても、スマホで指輪を探すこともできるんだ。
ぶっきらぼうだけど優しい彼の言葉に、私の心はみるみる回復していった。


「あ、これ綺麗」

最初に気に入ったのは『mist』という、水色のダイヤモンドのラインが綺麗な指輪だった。

「うん」
「あ、これもいいなあ、あとこっちも…」

でも、他の指輪も魅力的に映る。

アンティークみたいな凝ったデザインの指輪も可愛いし、シンプルな王道の指輪も捨てがたい。
どの指輪の名前もオシャレだし、それぞれ意味が込められていたりして…。ああどうしよう、どれもいいなあ。

と、そうこうしているうちにあっという間に30分が過ぎてしまった。
なかなか候補を絞れない私に、しびれを切らした直哉が叫ぶ。

「どれだよ結局!」
「だって、どれも綺麗じゃん」

こんなに高価な指輪を、購入する前提で見る機会なんてなかなかない。
真剣に向き合ってみると、どれも本当にキラキラしていて、夢みたいだと思う。
この中でたった一つを選ぶなんて、簡単なことじゃない。

「…でも、どうしてもどれか一つって言われたら、やっぱり最初のかなあ」
「『mist』?」
「うん。私の好きな、水色だし…それに」

『うるおい』というゆびわ言葉とその意味に込められた意味を見て、これがいいと思った。

『いつまでもうるおい、満たされた人生をふたりで送れますように。』

忙しくて大変で、時々こうして倒れてしまうような私の毎日を、いつも支えて満たしてくれる『うるおい』は、間違いなく直哉だと思ったから。
面倒くさがりで短気だけど、本当は誰よりも私のことをよく見て、考えてくれている。
こんな彼とだからこそ、結婚したいと思ったから。

「それに?」
「…『うるおい』のある人生を送りたいから」
「…? よくわかんないけど、麻央がいいならいいか。
俺もこれいいと思うし」

直哉は『ゆびわ言葉』の意味まではちゃんと読んでなかったらしく、首を捻りながらも了承してくれた。
わかっていなくてもとりあえず私を優先してくれる彼のことが、私はやっぱり好きだと思った。


一週間後。
体調も良くなり、仕事も早く上がることができたので、彼と選んだ指輪が置いてあるお店に行った。
実物の『mist』はすごく綺麗で、もうこれしかない!とその場で購入を決めてしまった。

悩んでいたのが嘘のように…ずっと前から身につけていたかのように、『mist』は自然に私の指に馴染んだ。
それはまるで、いつも当たり前に心配してくれて、看病してくれて、そばにいてくれる、大切な人のようだった。

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