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Ring Story

cache cache ゆびわ言葉®: まっすぐな愛

2017.09.05

「あのね…実は私、結婚することになって」

私がかつてないほどの緊張の中そう切り出すと、一緒にランチに来ていた会社の後輩三人組が一斉にこっちを振り向き、口々に「いつからですか」「お相手は?」「寿退社ですか?」と質問をぶつけてきた。
私は仕事は辞めないと答えつつ、一番聞きたかったことを、恐る恐る三人に聞いた。

「…それよりさ。
私にはこういうリング、あんまり似合わない…よね」

恋人から贈られたリングを三人に見せる。職場ではクールで通っている私に似合うはずのない、ハートをモチーフにしたリング。
本当はつけてくるつもりなかったんだけど、彼に言われて仕方なくつけてきた。
だから、反応がとても怖かったんだけど…。

「そんなことないですよ?」
「え?」
「ハートで可愛いけどおしゃれだし!先輩に似合うと思います!」
「え、でも…」

本当に?
意外な返事に、本当か何度も念押ししたけど、皆似合ってますと返してくれた。まあ、先輩だから言えなかっただけかもしれないけど…。

その夜。

「ほら、やっぱり似合うって言ったじゃん!」

帰宅後、ランチでの出来事を報告すると、恋人の蓮は口を尖らせて文句を言った後、すぐににっこりと笑った。

「だ、だってハートなんて、私のキャラじゃないし!」
「ふーん。これを見てもまだそんなこと言えるかな?」

言うなり彼は私の部屋に勝手に侵入し、中から大きなウサギとクマのぬいぐるみを持ってきた。

「ウサちゃん!クマ吉!…はっ」
「ほら、本当は可愛いもの大好きじゃん」
「でも、職場ではクールで頼れる先輩キャラで通ってるし…」
「そうなんだよなー。本当は可愛いもの見たらすぐ飛びつくのに、隠してばっかでさ。
でもそのかくれんぼも下手で、不器用だから、イメージ崩さないように頑張りすぎてすぐ体を壊す」
「う…」
「やっぱり夏帆は、俺がいないと駄目だと思う」

びしっと私を指さしてそう言う蓮は、生まれたときからの幼なじみ。2歳年上の蓮は、私が12歳になるまでずっと、自分の方がお兄ちゃんだからという理由で私と一緒に行動し、私を守ってくれた。
小学校卒業と同時に引っ越してしまって、それから12年間音信不通だったけど…。
剣道の大会で彼を見かけたことをきっかけに再会して、一緒に暮らし始めて、2年同棲して、プロポーズを受けた。

何も問題はないんだけど…でもひとつ、私にはどうしても引っかかっていることがある。

「蓮、私のこと好き?」
「なに、突然」
「いいから答えて」
「……」

蓮は答えず、ぬいぐるみを持ってまた私の部屋に戻ってしまった。

指輪をくれたときは確かに「好きだ」って言ってくれたのに。
その一回を除いて、一度も好きって言ってくれない。

もう一度、指輪を見つめる。くるくる回すと、きらきら輝くハートが顔を出す。
私のキャラには似合わない指輪。でも、私が大好きな可愛い指輪。

…ああ、そうか。
蓮はきっと、ずっと私のことを見つめていてくれてたんだ。
このハートは、きっと、言わずにずっと隠していた、12年分の、彼の私への「好き」という気持ちなんだ。

「…蓮は、かくれんぼが上手すぎるよ。私とは大違い」

今更彼の「まっすぐな愛」を見つけた私は、少し口を尖らせて文句を言う。それから、蓮に見つからないようにこっそり隠れて、指輪に向かってこう呟く。

「私も、蓮のことが好きだったよ。12年前から、今日まで、ずっと」

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